これでも まもり お誕生日おめでとう!小説です★
彼女の権利と彼の義務
三年生の夏休み、すったもんだの挙げ句、鈴音ちゃんの強力な後押しも有り、私と蛭魔君は信じられないけれど、世間で言う所の『恋人同士』と言う関係になった。
蛭魔君と付き合い始めて早、数ヶ月。
季節は夏から秋へと変化したけれど、私達はデートらしいデートをすることもなく、キャプテンとマネージャーと言う今までの関係と、何ら変わることなく過ごしている。
最近、何をもって蛭魔君の『彼女』と言えるのかわからなくなってきた。
友人達は彼とどこにデートで行ったか、どんな会話をしているか、どんなに彼が優しいか、甘い話しをキラキラした瞳で語ってくれる。
それら全部を蛭魔君に求めようなんてそんな無謀な思いはカケラ程も持っていない。
ただ、彼女達のノロケの1/5、いや、1/10でも良いから彼からの愛を感じられれば…。
そんな事を考えること自体、すでに無謀なのかもしれないとため息をつく今日この頃だったまもりに突然の転機が訪れた。
すっかり秋も深まり、冬の訪れがすぐそこまで来たことを日に日に感じるようになったある日。
「おい、糞マネ。明日、9時に泥門駅前集合」
「明日?明日は部活は休みじゃなかった?予定変更したの?じゃあみんなにメールしなくっちゃ」
急いで鞄から携帯を出すまもりに蛭魔は小さく舌打ちする。
「部活は予定通り休みだ。糞野郎共に連絡の必要はねえ」
「あ、じゃあ買い出し?何か補充するもの有ったかしら?特になかったハズだけど?」
「ちげーよ!部活から離れろ!」
「へっ?」
「来週の水曜日の21時44分。てめえは一つ寿命が減るだろう」
来週の水曜日の日付を思い出し、一瞬、ハッとしたものの、喜びよりも疑念が勝ってしまう。
「誕生日はともかく、何で産まれた時間まで知ってるの?!人の個人情報どこまで握ってるのよ?!怖いんですけど?!」
「ウルセー。てめえの薄っぺらい人生なんざ産まれた瞬間からお見通しだ!」
「人の大切な人生を薄っぺらいって何?!だいたい蛭魔君はねえ…」
「ウルセー!てめえは明日、来るのか来ねえのかそれだけ答えやがれ」
暫し沈黙。
まもりは考える。
この話しの流れからいって、もしかして、ひょっとしたら、何かの間違いかもしれないけど…デートのお誘い?
しかも、誕生日を絡めた!
…そんな馬鹿な。
あまりにも自分の考えが甘い気がする。
相手は悪魔よ?!
蛭魔君よ?!
そんな人並みなことするハズがない!!
絶対、何か裏があるハズ!
裏が無い訳がない!
でも…蛭魔君とデート…。
猜疑心を抱きながらも素直に嬉しいと思ってる自分がいる。
毒を喰らわば皿までと言うじゃない!
彼氏にデートに誘われただけでここまで覚悟決めなきゃいけない私って…。
少々、自分が不憫に感じつつも「行きます。」と、きっぱり答えた。
その夜から朝にかけて、まもりはそわそわしっぱなしだった。
明日の服は?
髪型は?
おしゃれはしたいけど、あまりおめかしし過ぎちゃダメ。
第一、そんな気張った格好で行ったら間違いなく蛭魔君に笑われる。
確実にからかわれる。
そう考えると余計にどんな服装で出かけべきかわからなくなり、まもりは遅くまでタンスと格闘することとなった。
翌朝、慌ただしく支度をしたまもりはどうにか予定していた時間に家を出ることができ、30分前には待ち合わせ場所に到着できた。
待ち合わせ場所には、まだ蛭魔の姿はなかった。
ショーウィンドウに姿を映して髪型や服装の最終チェックをして、ようやく周りを気にする余裕が出来た。
なんだか、やけにこちらをチラチラ見る男子が多い気がする。
どこかおかしな所があるのかと、再びショーウィンドウで確認しようとした時、声をかけられた。
振り返るとそこには知らない男子が立っていた。
「良かったらお茶でもと思って」
「ごめんなさい。待ち合わせしているので…」
当たり障りの無い言葉で断った後も次々と似たり寄ったりな台詞で何人もの男子が声をかけてきた。
大抵はすぐに諦めてくれたのだが、今、目の前に立っている男は自分にかなりの自信があるのか、なかなか諦めない。
それどころか、まもりの腕を掴むと強引に歩き出そうとする。
さすがのまもりも反感を覚え、強い口調で「彼氏と待ち合わせしているので結構です!」と手を払った。
「何すんだ…!」
ガチャ
逆ギレしかけた男の頭に冷たく固い感触が当たる。
男はまもりの後ろのショーウィンドウに自分の頭部に銃を突き付けた悪魔の姿を見た。
「ナニしましょうかネェ?」
背筋が凍り、油汗が流れると言う感覚を男は生まれて初めて味わった。
「す…す、スミマセン!なんでもナイです~!」
悲鳴のような声でそれだけ言うと男は脱兎の如く逃去った。
「相変わらず糞男にモテモテですネェ」
「そうね。彼氏が彼氏ですものね」
「ほぉ、喧嘩を売ってルンデスカネ?」
「その変な発音やめて下さい。蛭魔君、私が困ってるのずっと眺めてたんでしょう」
「なんで?」
「わ、私が『彼氏と待ち合わせしてる』って言うまで助ける気なかったでしょう?」
「…さあな。てめえのせいでタイムロスしちまった。オラ、さっさと行くゾ」
そう言うと蛭魔はさっさと歩き出した。
「ちょっと蛭魔君!」
慌てて蛭魔を追いかけ並ぶ。
「ちゃんと持って来たか?」
「えぇ、でも保険証がいる所って何処に行くの?」
「あそこだ」
「あそこって…産婦人科!?なんで?!」
ためらいもせず産婦人科に入って行く蛭魔にまもりは唖然としてしまう。
病院の中に消えた蛭魔を仕方なく追うが、やましいことは無くても産婦人科に入ると言うのはちょっと気後れしてしまう。
どう見ても高校生な男女が連れだって産婦人科に来るなんてと周りの人、全員に好奇の目で見られているんじゃないかと気になる。
蛭魔をチラリと伺って見るが、いつもと変わらず落ち着いたものだ。
蛭魔はまもりの保険証を受付に出すと問診票を書きはじめた。
スラスラとまもりの個人情報を書きこんで行くのを見て、慌てて蛭魔から問診票を奪い取った。
「なんで蛭魔君が私の問診票書くのよ?!」
「あん?知ってるから」
「知ってても書かないで下さい!」
どこまで自分の個人情報を把握されているのか気になりつつも、まもりは問診票を記入すると受付に出した。
「蛭魔君…ねぇ、なんで注射なの?」
受付を済ませ、しばらくは無言で二人並んで待合室に座っていたが、どうにも気になったまもりは蛭魔に尋ねたその時「姉崎さーん」名前を呼ばれ、まもりは困惑しつつも診察室へと入った。
簡単な応診の後、注射を受けて終わった。
受付で次回の予約をし、支払いをしようとして財布を持つ手が固まる。
た…高いっ!!
何、この値段?!
財布の中身をはたいても到底足りない…。
固まっているまもりの後ろからヒョイと手が伸びてさっと支払いは完了した
「ごめんなさい。後で返すから」
「いらね」
「え?あ、ちょっとぉ!」
出口へと向かう蛭魔を追いかける。
産婦人科を後に、まもりは蛭魔としばらく無言で並んで歩いたが突然、「モーニング食う」と、蛭魔が喫茶店へと入って行ったので、まもりも続いて入った。
席につくと蛭魔は少しも迷う事なくモーニングDセットを注文したので、まもりもミルクティを注文する。
速攻で運ばれて来たボリュームのあるモーニングをあっと言う間に平らげて行く蛭魔に感心してしまうが、和んでいる場合ではない。
「で?なんで予防接種?」
「あー、誕生日プレゼントデスヨ」
「…予防接種が誕生日プレゼント?」
「悪りぃか?」
「悪くはないけど…聞いた事ない」
「てめえは俺と付き合っている。」
「うん」
「今日の予防接種は子宮子頸癌の注射だ」
「うん」
「子宮頸癌ってのはどうして出来るか知ってるか?」
「えっと…その…あの…せ、性交渉によって…よね?」
「子宮頸癌になる原因は100%の確率でヒトパピローマウイルスによるものだ。HPVに感染する原因は性交渉で、女性の80%が感染すると言われている。ま、ありふれたウイルスって訳だ。」
そこで蛭魔は一旦、言葉を切った。
「てめえは一応、俺と付き合ってるって自覚があるみてぇだしなぁ」
「うん」
「男と女が付き合ってりゃ、遅かれ早かれ男女の仲ってやつになんだろ?」
「うっ…」
あからさまな事をさらりと言われてまもりは顔が赤くなる。
「原因が分かってて、予防注射が有る癌はこの子宮頸癌だけだ。しかし、性交渉未経験者じゃねえと予防率が下がる。幸いてめえはまだだろ?」
「……」
まもりはますます赤くなって何も言えない。
「避妊は男の義務だが、同時に妊娠は男の責任だろ?」
「それは…」
なんと答えて良いのか分からず言葉につまる。
「子宮頸癌は性交渉が原因なら、その原因を取り除くのも男の責任じゃねえか?子宮頸癌になりゃ最悪死ぬし、下手すりゃ子宮摘出だ。将来、そんな事にならねぇようにする責任が男にはあんだよ」
蛭魔の言葉にまもりは黙りこむ。
そんな事まで考えるのがなんとも蛭魔らしいと感じる。
「でも蛭魔君、この予防注射ってまだ一ヶ月後とそれから半年後の二回有るのよ?」
「だから?」
「えっ、だから、来年の6月位まで注射がかかって、その頃は高校卒業してるじゃない…?」
「で?」
「いや、あの、だから、えっと…」
「卒業したらハイ、それまでよで良いのか?」
「良くない!」
「じゃあ問題ねえだろ?ちょうど大学生活にも馴染んで良い時期じゃね?」
「何が?!」
「ナニが」
意地悪くニヤリと笑う蛭魔にまもりは真っ赤な顔で口をパクパクするしかできなかった。
「おっし、行くか」
「えぇ?!何処へ?!」
「何処へって…てめえは何処を考えたんだ?」
まもりの過剰な反応がおかしくてたまらない。
つい余計にからかいたくなってしまう。
「デートすんだろ?それともここで解散すっか?」
「それは嫌!行きます!」
伝票を持ってレジへ向かう蛭魔をまもりは慌てて追いかける。
ふと、足を止めてまもりと並んだ蛭魔はまもりの耳元に唇を寄せ
「てめえの期待に答えるのは来年6月だ。覚悟しとけよ」
それだけ囁くとレジへ並んだ。
これ以上ない位、真っ赤な顔をしてまもりは立ち尽くす。
「おら、行くぞ!」
立ち尽くしたまま動けなくなっているまもりの手を握ると蛭魔はそのまままもりを引っ張って店を出た。
店の外に出て歩き始めても繋いだ手はほどかれる事はない。
まもりは嬉しくて蛭魔の手をぎゅっと握りかえすと、寄り添うように初めてのデートへと出発した。
END
後日談として、
泥門校内に「まもり懐妊!」の噂が流れるってのも考えましたが没りました★
しかし、子宮頸癌のニュースを見て話しを考える奴なんて私くらいでしょうね…。
まもり誕生日小説がこれって…と、自分でも呆れちゃいます★
でも、大切な事だと思うわけですよ!
それにしても、ワクチンはとっても高いですよね…。
地域によっては自治体が負担してくれる所も有るそうですが、何処も財政難だから難しいですよね。
だけど、子供を産めよ増やせよって言う位なら、将来、健康に赤ちゃんを産んで貰う為に無料で受けさせろ!って思いません?
先進国で無料じゃないのって日本位らしいじゃないですか?
そもそも日本って予防接種に対して後進国過ぎません?
製薬会社と政治家の癒着のせい?
政権変わってようやく認可された薬とか注射とか有るのはそのせい?とか考えちゃう。
まあ、政治家より悪いのは仕切ってた官僚なんだろうけど★
あ、この考えは社会の仕組みとかろくに分かってない私がちょこっとニュースを見て思ったことなので間違えてるかもしれないので深くは考えないで下さいね!
ちなみに、子宮頸癌ワクチンの有効期間は最長で6、4年だそうです。
一生じゃないのは仕方ないとしても短いような…。