「十文字君、ちょっと良い?」
練習の後片付けが終わり、部室へと向かう途中、十文字はまもりに呼び止められた。
黒木たちに先に行くよう促してから十文字はまもりへと向き直った。
「何っすか?」
「ごめんなさいね。クリスマスボウルのチケットの事なんだけど・・・」
「あぁ・・・」
「チケットの申し込み、あと十文字君と蛭魔くんだけなの。十文字君はどうするの?何枚申し込む?」
「・・・・・あ~・・・、いや、俺は・・・いらないっす」
「え?」
「呼びてえ奴なんて居ねえし、チケット渡したところでどうせ来やしねえだろうから・・・」
「ご両親のチケットだけでも申し込みしない?」
「・・・いや、うち 片親っすから・・・」
「あ・・・ごめんなさい」
「気にしなくてよいっすよ。うちのは糞真面目だけが取り柄の糞おやじっすから、ルールどころかアメフトってスポーツすらしってるか怪しいし。そんな奴呼ぶ価値もねえし・・・どーせ来なねえから」
「そんなことない!」
「え・・・」
「十文字君はずっと頑張ってた!努力してた!それはきっとお父さんにも伝わってる。だから絶対来てくれるはずよ!」
「マネージャー・・・」
「だから・・・だから・・・」
「・・・無駄になるかもしれねえけど・・・・一枚もらえるか?」
「うん!」
照れくさそうに、けれど何か決意した顔でチケットを受け取った十文字を見送りながらまもりは心を決めた。
「おい!糞マネ!!」
いきなり派手な音をたてて部室のドアが開くやいなや、部室に蛭魔の怒声が響き渡った。
部活の準備をしていたメンバーたちはその迫力にすくみ上り固まってしまったが、当のまもりはたいして驚いた様子もなく受け流した。
「蛭魔君、そんなに大声出さなくてもちゃんと聞こえてるし、ドアも乱暴に開けすぎ!壊れちゃうでしょ」
「・・・・・・」
「で、そんなに怖い顔してどうかしたの?」
まもりの その浮かべた笑顔に、蛭魔は何故自分がこれほど激昂しているのか理解していることを確信した。
チッと盛大に舌打ちした後、蛭魔はメンバーたちをねめつけると怒鳴りつけた。
「糞野郎ども!さっさと準備してとっとと出ていきヤガレ!!黒ミサ川河川敷往復100周!おら!行ってこい!!」
「「「ひえぇぇぇぇぇ~~~~~~~!!!」」」
蛭魔のあまりの迫力に気おされ、メンバー達は我先にと転がるように部室から出て行った。
ふたりだけになった部室にしばし静寂が広がったが、静寂を破ったのは蛭魔の地を這うような苦々しい声だった。
「糞マネ・・・どういう事だ?なんでテメエがアイツの事を知ってやがんだ?てめえはどこまで知ってやがる?」
「前・・・関東大会への出場が決まった時、蛭魔君、大量に携帯を入れてるバッグをベンチにおいてたでしょ?あの時、蛭魔君のお父さんから蛭魔君に電話があったの」
「てめえ出たのか?」
「ううん。出てない。ただ、表示されたナンバーは見た。電話はすぐに留守電に代わって・・・留守電に入れてるメッセージが聞こえてきて・・・相手は蛭魔君のお父さんからなんだってわかった」
「・・・・・」
「蛭魔君、お父さんの番号登録してないでしょ?それがあだになったね。表示されたナンバー覚えてたから・・・電話かけたの」
ふふっといたずらっぽく笑うまもりに蛭魔は苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「最初はすごく驚かれたけど、わけを言ったら喜んでくれて、この間、部活が休みだった日に会ったの。やっぱり親子だね。蛭魔君に似てたからスグわかった」
「てめえ・・・なに勝手なことしてやがんだ!?てめえになんの権利がある!?人のプライベートに土足で入るんじゃねえ!!」
「権利なんて何もないよ。だけど・・・だけど私は知りたかったんだもん」
「なんだ?てめえ、俺の脅迫ネタでも仕入れようって魂胆か?」
「チガウ!そんなんじゃない!純粋に蛭魔君のことが知りたかっただけ!」
「・・・・・」
しばし沈黙のにらみ合いが続いたが、まもりが口を開いたことでそれは終わりを告げた。
「蛭魔君は・・・一人でなんでも抱えすぎだよ。誰にも少しの油断も見せないで、まるで荒野に立ってるみたい。そんな姿、見てるこっちが辛い。まだ信じてもらえてないんだって悲しくなる・・・」
蛭魔の瞳をしっかり見つめながらとつとつと語るまもりの瞳は悲しみに少しずつうるんできている。
そんなまもりに蛭魔の口調も落ち着いたものに変わった。
「・・・勝手にこんなことする奴のどこを信じれるっていうんだ?」
「蛭魔君のお父さんと会って、いろいろお話聞いて、わかったの。蛭魔君が勝ちにこだわる理由」
「トーナメントは負けたらそこで終わりだ。勝敗にこだわるのは当たり前だろうが」
「そうなんだけど・・・蛭魔君からはそれだけじゃない、強い何かを感じてた。」
「ハッ!勝利以外 勝敗に何が重要だって言うんだ?」
「蛭魔君は負けることなんて恐れてない。蛭魔君がおびえてるのは逃げ腰になること・・・でしょ?」
「・・・・」
蛭魔はまもりの言葉に眉一つ動かさず、なんの反応も示さない。
その反応のなさこそが核心に迫ったとまもりは感じた。
「だから逃げなんて打てないように いつも自分で自分を極限まで追いつめて責め立ててる。自分は父親のようにはならないって」
ふいに蛭魔の視線がそらされたが、まもりは揺るがない。
「蛭魔君のお父さんから聞いたの、お父さんの事。逃げた自分を蛭魔君が軽蔑してる事」
「・・・・・・」
「ずっと会ってないって。会いたいって」
「・・・・・・」
「蛭魔君は まだ許せない?」
「・・・・・・」
「クリスマスボウルのチケットを渡しておいたの。来てくれるって言ってたよ」
「チッ、余計なことを・・・」
「蛭魔君が一番勝利を見せたい相手はお父さんだろうって思ったから」
そういってほほ笑むまもりはあたたかい光に包まれっているようで 蛭魔は少し目をすがめる。
フッと何かを吹っ切るように短く笑った蛭魔はすでにいつもの蛭魔に戻っていた。
「糞マネ、てめえのせいでクリスマスボウルは絶対負けられなくなったじゃねーか。どうすんだ?」
「どうもしないわ。勝てば良いだけだもの」
「ククッ、えらく強気デスネ」
「蛭魔君と蛭魔君のお父さんの為だもの。絶対負けないから!」
「ほ~、ありがたいこって」
「・・・あんまりありがたく思ってないでしょ?」
「いえいえ。大変ありがたくて、お礼にクリスマスボウルで勝ったらてめえをあの糞親父にマイハニーだって紹介してやるよ」
「・・・は?」
「ダーリンが良いか?」
「いやいやいや、ハニーとかダーリンの問題じゃなくて・・・」
「嫌か?」
「・・・・嫌じゃないです」
「クリスマスボウル絶対負けられねーぞ」
「うん」
「てめえ、勝手しやがったんだから 覚悟しとけよ?」
「うふふ、蛭魔君も覚悟決めてね」
「フン。あたりめーだ」
ニヤリと笑う蛭魔はすっかり何かを吹っ切ったようなすがすがしい顔していて、まもりは精悍な笑顔に見とれてしまった。
終わり
・・・・ずっと書きたかったわりには 最後まとめられず・・・
おいおい直そうと思ってたんだけど、ちょっと考えがまとまらなくて。
これを書き上げた日、叔父が亡くなりました。
自死でした。
いつものんびりニコニコ笑って冗談ばっかり言ってる叔父でした。
そんな叔父と自殺は全く私の中では結びつかないけど
人間ってのはもろいようでしぶとく、しぶといようでもろいものなのですね。
ふとした瞬間に魔に出会ったんですね。
死ぬくらいなら なんでもできそうな気がするけど・・・
死にたいと思ったことのない私には 自殺する人の気持ちがわからない。
勝負に負けるのはかまわない
逃げるのも 策としてあり
だけど、全部捨てて果てまで逃げるのはダメでしょう
そんなじゃ もう2度と勝つチャンス無くなるじゃん
笑えない
岩に噛り付いてでも虎視眈々と起死回生を狙う人生が良い。
死ぬときは笑いたいから

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