Darling
「蛭魔君、なに食べたい?」
まもりはカゴを持って後ろを歩いている蛭魔に今夜、食べたいものを聞いてみた。
「あー、肉」
「肉かぁ…今日は特売してないなぁ…」
「俺が出すから気にすんな」
「そうはいきません」
「いんだよ。飯作ってもらってんだし、金くらい出すのは当然だろ」
「でも…」
「いいから気にすんな」
「うーん、じゃあ今日は生姜焼きで良い?」
「おー」
「じゃあ、生姜焼きとサラダとお味噌汁と…もう一品、何かいるかな?」
「いらねーから肉増量しろ」
「付け合わせにスパゲッティとか?」
「いらねー。どこの弁当屋だよ」
関西の大学に進学したまもりは、生まれて初めての一人暮らしを始めた。
最初はどうなるか不安だったが、同じマンションのお隣さんが蛭魔と言う事もあり、全く問題なく今のところ生活できている。
二三日おきに部活帰りに一緒にスーパーに寄って買い出しをして帰るのが新生活の定番になっていた。
買った食材はまもりの部屋でまもりが料理する。
それを蛭魔がご相伴に預かるのがいつものコースだ。
今日も帰宅後、まもりはいそいそと台所に立ち、蛭魔はいつものようにリビングでゆったりソファーに座りパソコンをいじっていた。
お腹をすかせている蛭魔の為にまもりは素晴らしいスピードで手際良く料理を仕上げた。
素早く料理を盛り付け、トレーに乗せてリビングへと運ぶと、そこには二人がけのソファーに窮屈そうに寝転がってかすかな寝息をたてている蛭魔がいた。
「寝ちゃってる…」
トレーを持ったまま、しばしまもりはその場にたちつくしてしまったが、すぐに気を取り直してテーブルの上に料理を並べた。
まもり自身、さっきからお腹がなりっぱなしなくらいペコペコで、できたての料理を早く頬張りたいのだが、蛭魔が眠ってしまってるのでどうしたものか、蛭魔の寝顔を眺めながら思案した。
鋭い眼光を隠した寝顔はいつもより幼く見える。
眠っても頭の中はフル回転しているようで、形の良い眉がしかめられっぱなしだ。
高校時代の練習もかなりハードなものだったが、やはり質が違うと言うか、大学での練習後の蛭魔の疲れ具合はかなりなものだ。
今まで通り、メンバー達の前では疲れた素振りなど一切見せないが、まもりの部屋に帰ると御飯を待つ間にうたた寝してしまうことが多々ある。
身体能力は並みの蛭魔が、日本トップレベルの中で戦うのはかなり心身ともにハードだろうなと、ついつい心配してしまう。
そんな事いったら蛭魔に俺に過保護は要らねえと一蹴されるに決まっているが。
寝顔を眺めていると、高校時代に友人達と理想の相手について話した時の事を思い出した。
みんな、顔が良くて、格好良くて、背が高くて、足が長くて、優しくて、真面目で、誠実で、絶対浮気しなくて、お金持ちで、サプライズしてくれて…と、本当に好き勝手に理想を並べ立てていた。
理想と現実は違うと言うけれど、なんで?どこで間違ったの?ってくらい、あまりにもかけ離れ過ぎだと思っていたけれど、改めて考えてみると…
蛭魔は惚れた欲目を差し引いても整った顔をしている、良い顔だと思う。
アメフトをやっている時は文句なく格好良くていまだに見惚れてしまう事があるくらいだし、背だってまだ少しずつだけど伸びていて、入部の時の身体測定では180cmになっていたし、足だって長い方だ。
甘やかすだけの優しさではなく、強い優しさを感じるし、あんな風だけど実は根っこの部分は本当に真面目で誠実な人だと思う。
だから浮気の心配なんて全くない。
資産総額はいくらかは知らないけれど株取り引きだけでなく、いくつか会社も経営してるようなのである程度のお金は持っているはず。
サプライズは言わずもがな…蛭魔と居れば毎日がサプライズと言って良い。
………そう考えると……もしかして私ってかなり理想に近い人とお付き合いしてる?
寝顔をじっと見つめているとなんだか蛭魔とキスしたくなってしまった。
キスしたら目覚めるかな?
細心の注意を払ってそっと近づき眠っている蛭魔にキスするために顔を近づける―――
唇が触れる寸前でパチリと開いた蛭魔の目と思い切りかち合った。
「!!」
驚いて飛びすざろうとしたまもりだったが、腕を思い切り引かれ蛭魔の上へと倒れこんでしまった。
「つまみ食い糞マネが腹減り過ぎて俺をつまみ食いする気デスカ?」
「ち、違います!!起きたなら御飯にしよ」
「つまみ食い良いかもナ~」
モゾモゾと目的を持って動き始めた指先にまもりは慌てふためく。
「駄目!今は駄目!せっかく作りたてなのに!」
「…では食後は良いと言う事で?」
「えっ?あ…いや、あの…」
顔を真っ赤にしてオロオロするまもりが蛭魔はおかしくてたまらない。
「ま、腹が減っては戦はできねぇしな」
「戦って…ンッ…んふっ…んン…」
まもりの言葉は蛭魔の濃厚なキスにより途切れた。
ようやく離れた時、まもりは息が上がっているわ、腰がたたないわと散々だった。
そんなまもりにますます笑みを深くした蛭魔はすっかり疲れなんか吹き飛ばした清々しい顔で「続きは後でナ」とまもりの耳元で囁き、さらにまもりの顔を赤くさせたのだった。
終わり
どうせ もうかなり冷めちゃってるから食前でも良かったような…
いやいや、かなりお腹空いてるし!
大学での蛭魔はかなり苦労するんじゃないかと思うんだけど、きっとまもりが心身ともにしっかりばっちりケアしてくれて大丈夫なはず!!
大学での蛭魔とまもり…見てみたいにゃ~。

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