月をさす指
「あ、蛭魔君見て!」
朝練の片付けをしていたまもりが声をかけてきた。
声につられて蛭魔はまもりの指差す方にゆっくりと視線を向けた。
まもりの白く細い指がさしたのは青空にかすかに浮かぶ月だった。
「明るい時にお月様を見るのって、なんだか良い事がありそうな気にならない?」
「月をさす指…」
「え?」
蛭魔が呟いた言葉を聞き取れず、まもりは月から視線を蛭魔にうつした。
蛭魔も視線をそらすとつまらなそうに答えた。
「……別に、月齢が18~25なら太陽と月の位置によって朝でも見えるってだけだろ。ネタがわかりゃあ特別でもなんでもねえよ」
何でもない事のように返事を返す蛭魔にまもりは少し頬を膨らませた。
「それはそうだけど…そんな事いっちゃったら夢がないじゃない」
「どうかしたのか?」
「あ、ムサシ君。青空にお月様見つけたら嬉しくならない?」
「ん?いや…考えた事なかったな」
「どうかしたんすか?」
片付けを終えたメンバーがぞろぞろと集まって来た。
「うわ!マジで月出てる!」
「なんでだ!?」
「マジかよ!?」
「なんだか得した気分になるね」
「わかる!なんか良い事ありそうだよな」
まもりの話しを聞き空の月に気づいたメンバー達がワイワイ盛り上がって騒ぎだした。
そんなメンバーを呆れた目で眺めている蛭魔にムサシが話しかけて来た。
「蛭魔、お前が見たのは月か?それとも指か?」
「…月しか見ねえよ」
「そうか」
「糞ジジイ、くだらねえこと言ってねえでさっさと着替えろ。テメーらもさっさと準備しヤガレ!」
「蛭魔君、みんなに向けてマシンガンを乱射しないで!」
蛭魔のマシンガン乱射により、和やかな雰囲気は一変、メンバー達は蜘蛛の子を散らすように部室へと転がりこんで行った。
「もう!」
残ったのは頬を膨らませて腕組みをするまもりだけだった。
―――指が月をさすとき、愚者は指を見る。
まもりが月を指差した時、蛭魔は月ではなく、指差すまもりを見た。
そして、ほんの一瞬だが、嬉しそうに月を眺めるまもりの横顔に見とれた。
今は月ほど遠い場所を目指さねばならぬ時で、よそ見などしている暇はない。
それなのに月とひかれあい海が満ちる様に自分の感情が満ちていくのを感じる。
「蛭魔君!蛭魔君も早くしないと授業に遅れちゃうよ」
エプロンをはずしながらまもりが蛭魔を呼ぶ。
「あー…ま、俺は出なくても構わねえから」
「駄目です!授業サボるなんて絶対許しません!ほら、早く!」
そう言うやまもりは蛭魔の手を引っ張り部室に向かいずんずん歩き始めた。
繋がれた白い手を見る。
思わず握りかえしたくなる衝動を抑えて空を見上げた。
そこに浮かぶのは月。
自分は確かに愚者だと思い知る。
しかし、必ず月も指も手に入れる。
その決意を深めて蛭魔はニヤリと笑った。
終わり
指が月をさす時、愚者は指を見る
中国の諺です。
愚者には心理が見えないとかそう云う仏法の言葉らしいです。
まだクリスマスボウルを目指してるあたりの蛭姉・・・かな?
関東大会が始まる前くらい?
新年一発目がなんだか暗い話になちゃった。
意味分かりましたかね??
次は明るいのが良いな~♪
今、書きさしのは 入れ替わりなお話ですが、はたしてちゃんと書ききれるのか!?
途中で止まったままっすヨ★

PR