Tmorrow never knows
「あ!」
テーブルを兼ねたルーレット台の上に無造作に置かれたそれを見つけた時、まもりは手に持った箒を握りしめてまじまじとそれを観察してしまった。
台の上に転がっているソレは紛れもなくまもりの大好きなアレである。
しかし、部員の誰かが忘れて帰ったモノとは思えない。
今日は鈴音ちゃんも来てないし…
あまりにもカジノのようなこの部室には不釣り合いなモノだ。
手に取るのははばかられるので息を殺し、顔を近付けて見る。
やはり間違いない。
台の上にあるのはまもりが愛してやまないロケットベアーの小さな置物だった。
手のひらサイズのそれは、座った姿勢のまま天井を見ている。
手には細かい細工の施されたアンティーク調な金時計を抱えている。
まるで大きな金時計を持ち上げようとして、あまりの重さに尻餅をついて転がったように見えて、思わずまもりは微笑んだ。
やはり見るだけでは我慢できず、そっと手に乗せた瞬間、部室のドアが開いた。
「わっ!」
驚きのあまり持っているモノを落としそうになり、まもりは慌てて両手で掴まえた。
変な動きをするまもりに蛭魔は馬鹿にした視線を送ると同時に馬鹿にした言葉も送った。
「んっな何驚いてやがんだ?またつまみ食いでもしてたか?」
「違います!」
「ふん。コーヒー」
そう言うや、蛭魔は一切興味をなくした様子で席につくとさっさとパソコンをいじり始めた。
そんな蛭魔にまもりはため息をつくと、手のひらのモノを蛭魔に向かってかざしてみた。
「ねえ、これ」
パソコンから視線をあげて蛭魔がまもりの手のひらのモノを見た。
「テーブルの上にあったから部の誰かが忘れたんだと思うんだけど…」
「欲しいなら持って帰りゃ良いだろ」
「は?」
「いらねんならゴミ箱に捨てろ」
蛭魔はすでに興味を失ったように視線をパソコンに戻していた。
「忘れ物を勝手に自分の物にしちゃうのって犯罪だからね!そんな事できません!」
「ゴミはゴミ箱へって習わなかったか?」
少しイラついたような口調の蛭魔にまもりも少しカチンときて口調がキツくなった。
「忘れ物はゴミじゃありません!」
「持ち主が要らねえって思ってんならゴミだろうが」
「えっ!?この子の持ち主、いらないから置いて帰ったの!?信じられない…」
「言うに事かいてこんなあほくせえクマをこの子なんて表現使うてめえの方が信じられねえよ」
イラついた口調は一気に呆れを含んだものへと変わった。
「誰のか蛭魔君は知ってるの?」
「だからいるなら持って帰りゃ良いって言ってんだろ」
「でも、やっぱり勝手には持って帰れないわ」
「好きにすりゃ良いだろ」
「ねえ、本当にこれ誰のなの?」
「株主優待の景品」
「は?」
「俺が持ってる株の会社が送ってくんだよ」
しばしまもりの思考は停止したが、復活と共に徐々に理解した。
「…じゃあこれって…」
「ゴミ」
「……」
「何か?」
「……もらっても良い?」
「どーせゴミだからな。勝手にすりゃ良いだろ」
「本当に!?良いの!?きゃー!」
興奮のあまり、ロケットベアを抱き締めて部室の中をピョンピョン跳び跳ねまわるまもりを蛭魔は苦笑を浮かべて見つめた。
「蛭魔君、ありがとう」
「おー。せいぜい馬車馬の如く働けよ」
「……」
まもりから返事がないのをいぶかしく思った蛭魔はちらりとまもりに視線を向けた。
「大丈夫。ご褒美なんてなくても頑張るよ。クリスマスボウルはもう蛭魔君達だけの目標じゃないんだから」
そう言って微笑むまもりに不本意ながら蛭魔は一瞬見とれてしまった。
「その言葉たがえず身をこにして働けよ」
「当然よ!」
ロケットベアを胸に抱きしめて嬉しそうに微笑むまもりに微かながら蛭魔の口角も上がる。
クリスマスボウルは自分だけの夢ではなくなった。
もっとはじけるような笑顔を見る為に
蛭魔は決意を新たにした。
終わり
なんなんでしょうね~。

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