「
やさしさに包まれたなら」
ガラリと部室のドアが開いた。
SONSONに行った蛭魔が帰ってきたのかと思ったが、入ってきたのはすでに帰宅したはずの栗田だった。
「あら、栗田君どうかしたの?」
「忘れ物しちゃってね。慌てて取りに帰ったんだ」
そう言うと栗田は自分のロッカーからガサゴソといくつもの紙袋を取り出して自分のバッグに詰め込んだ。
「姉崎さんもよかったら ひとつどうぞ。美味しいよ」
栗田はそう言うと紙袋をひとつまもりに渡した。
「ありがとう」
紙袋の中をのぞくと中には美味しそうなパンが入っていた。
「今日、商店街のパン屋さんが開店三周年記念で全品半額セールしてたから昼休みに買いに行ったんだ」
「そうだったんだ。ありがとう」
「どういたしまして。って、姉崎さん、それって進路調査書?」
まもりが持っている用紙に気づいた栗田がのぞき込んできた。 その紙には名前以外なにも記入されていなかった。
「うん。そう」
「姉崎さんはどこの大学行くの?」
「それが・・・ちょっと迷ってて。栗田君はもうだしの?」
「うん。炎魔大。僕の成績で行けるアメフト部のある大学って炎魔くらいだから」
「そっかぁ。炎魔大なら栗田君の家からも近いし良いね」
「そうなんだ!大学でもアメフトやりたいからね!」
「大学でもアメフトか・・・」
「姉崎さんは?」
「えっ?」
「大学でもマネージャーするの?」
「マネージャー?」
「うん。だって姉崎さんみたいに優秀なマネージャーってなかなかいないと思うよ。マネージャーも主務も完璧にこなせるなんてすごいよ!あの蛭魔と対等にやりあって、ちゃんと指示もこなせるなんてむちゃくちゃすごいことだよ!姉崎さんならどこの大学でも立派にマネージャーやっれるって!即戦力だよ!」
「戦力・・・。そうかしら?」
「うん。蛭魔だってきっとそう思ってるよ」
「蛭魔君が?そうかなぁ・・・」
「あ!姉崎さん」
「うん?」
「もし、その・・・大学でマネージャーしたくないなら早めに大学決めて進路調査書提出した方が良いよ」
「?なんで?」
「そうじゃなかったら蛭魔に大学勝手にきめられちゃうかもしれないよ」
「蛭魔君に?」
「うん。蛭魔は最京大なんだ。姉崎さんが大学決めてないなんて知ったら「従順に働きやがれー!」って無理やり関西に引っ張っていかれちゃうかもだよ?蛭魔は良い奴だけど、アメフトに関しては容赦ないから・・・・」
「蛭魔君って最京大なんだ」
「うん。だからね、早めに決めた方が良いと思うよ」
「うん。わかったわ。ありがとう。早めに決めるようにするね」
「それじゃあ、また明日!」
「うん。また明日。気を付けてね」
栗田が帰り、再び部室に静けさが戻るとまもりは進路調査書を手に取りしみじみとつぶやいた。
「そっかぁ・・・蛭魔君、最京大なんだ・・・」
私がまだ大学迷ってるって知ったら・・・蛭魔君は栗田君が言うように私を最京大に引っ張っていくかしら・・・・? ぼんやりとそんな事を考えていると勢いよく部室のドアが開いた。
「糞マネ まだ居たのか」
「もう帰ります。蛭魔君はまだ帰らないの?」
「んっ、もう少しな」
ドカリと椅子に座るや、長い脚をルーレット台に投げ出して、膝に置いたパソコンを開いた。
「そういえば、蛭魔君って最京大に行くんですって?栗田君が言ってた」
「おー」
おざなりながら返事は一応返ってきた。
「やっぱり大学でもアメフトするんだね」
「当たり前だろ。そのための大学だ」
「だよね」
「でめえは?」
「私?」
少し迷ったがまもりは正直に答えた。
「私は・・・正直、まだ迷ってて・・・・」
「あん?自分の行きたい大学に行くか、「まも、一緒に行こう~」とかって誘われた大学にホイホイついてくか、糞チビが入学しそうな大学に先回りして行くかだろ?悩むだけアホらしい選択しいだな」
「アホらしいって何よ」
「てめえは何しに大学に行くんだ?」
「何って・・・」
「教師になるためか?遊ぶためか?子守するためか?大学行って自分が何やりてえか考えりゃ答えは簡単に出るだろうが」
いつもながら蛭魔はスッパリと言い切った。
「大学行ってからとか、将来とか考えたらそんな単純な話とは思えない。やっぱり悩むわ」
「ケッ。既に老後の心配か?」
「老・・・そんな先までは心配してません!」
「同じだろ」
「全然違うわよ!」
「今、この瞬間過ぎれば過去だし、一瞬先でも未来は未来だ。誰にも一瞬先はわからねえ。次の瞬間、死んでる事だってねえとか限らねえ」
「それはそうだけど・・・」
「どうせどうなるかわからねえんなら自分の思うように行動すべきだろ?」
「かなり極論だと思うけど・・・」
「死ぬ瞬間に悔やむより笑いてえだろうが」
「まあね・・・」
「やらないで後悔するより、やるだけやって失敗する方がスッキリすんだろ」
「・・・・蛭魔君はスッキリしすぎだと思うけど・・・」
「うるせー。余計なお世話だ」
「でも・・・そうよね。一瞬先なんてどうなるか誰にもわからないものね」
「おー。いい加減 子離れして、人の世話なんざ放っといて自分の好きにすりゃいいだろ」
「最京大で従順に働けとは言わないのね・・・・」
「・・・・・てめえの人生だ。俺には関係ねえ」
「そうね。私の人生だものね・・・・。うん。好きにするわ」
「おー。せいぜい楽しみヤガレ」
そこで会話は終わり、その日のまもりは結局、答えをだせないまま帰宅した___。
続く
コピーができない・・・。
メールを打ち直してるから時間がかかるかかる。
やっとれん!
後半はまた今度・・・・。

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