Syncopation Love 2
職員室では風紀委員顧問と、学年主任と、生活指導担当教諭が二人を待ち構えていた。
待ち構えていると言っても、待ち人の片割れは蛭魔と言う事で、どの教師の顔にも緊張と怯えが浮かんでおり、まるで自分達の方が断罪されるような様相だ。
「蛭魔君。その……なんだ、あ―――…」
風紀委員顧問の古屋が口を開いたものの、次の言葉が出て来ない。
周りの先生達は心の中で「頑張れ!」とエールは送るものの助け船は出さない。
なるべく火中の栗は拾いたくないのだ。
「蛭魔君が何かしたんですか?」
古屋の煮え切らない態度に焦れたまもりが尋ねた。
「姉崎さん……。これは、その、非常にデリケートな問題で、本来なら当事者同士は同席さずに、個々、事情を聞くのが望ましいのだけれど、何ぶん相手が……あ―…こちらの都合も有り、このような形になってしまい大変申し訳なく……」
まもりと話していると言う事で古屋の顔も視線もまもりを向いてはいるが、意識は一挙手一投足、ささいな反応も逃すまいと蛭魔へと向かっているのがありありとわかる。
「回りくどい説明は結構ですから簡潔にこの状況の説明をして下さい」
ピシリと言ったまもりに古屋は持っていたハンカチで汗を拭いた。
「まあ、落ち着いて……。姉崎さんにとっては落ち着いて居られる話しではないのは分かりますが…」
「はぁ?」
「分かりました。私も腹をくくって聞きます」
どう見ても弱々しく、頼りないのだが、精一杯拳を握りしめて気合いを入れた古屋が本題に踏み込んだ。
「姉崎さん、貴女は昨日、ひ…蛭魔君にセクハラされましたね?」
「はぁ?」
「隠さなくても良いですよ。その人の身の安全の為、誰とは言えませんが、目撃者が居るんです」
「目撃者?」
「はい。その……貴女が、蛭魔君に無理矢理に接吻をされていたと言う目撃証言です」
「!!」
古屋の言葉を聞いた瞬間、まもりの顔は一気に朱に染まった。
あ、あれを見られてたの――――!?
地獄耳な男が人の気配に気付いていないハズがないとチラリと隣を伺うと、「2年1組の小森」と、隣の男は涼しい顔でポツリと呟いた。
「!!」
よりにもよって風紀委員の小森君!?
最近、時々、身の回りで人の気配を感じる事があったが、その気配の正体は小森だったのだ。
少々オタク的と言うか、閉鎖的と言うか、独特の雰囲気を醸し出し、人と交わろうとしない小森は風紀委員の間でも変わり者、変人と敬遠されている。
だから、まもりが率先して風紀委員の仕事を小森に教えていたのだが……その彼に目撃されたなんて、まもりは頭を抱えてしゃがみこみたくなった。
が、まもりがショックで暫し呆然と意識を飛ばしている間に事態は動いていた。
「ひ、蛭魔ァ!お前は色々問題のある奴だが、イタイケな女子生徒に力付くでどうこうする奴じゃないと思っていたのに……貴様と言う奴は――!!」
「貴方はふざけて軽い気持ちかも知れないけれど、それが女子にとってどれだけ傷つく行為かわかるの!?」
体育教師が拳を握りしめ、音楽教師がハンカチで口元を押さえて小刻みに震えている。
まもりの様子に蛭魔の犯行に間違いはないと確信した他の教師達もここぞとばかりに蛭魔を責めだした。職
員室の両方のドアに鈴なりになっている生徒達もここぞとばかりにシュプレヒコールをあげる。
本当の事を話せば自体はすぐに終息する。
が、しかしそれは、教師達、野次馬達に『蛭魔君と付き合っています』と自ら宣言しなければならないわけで……
まもりは恥ずかしさから気後れしてしまい言葉を紡げない。
何故このような事態になってしまったのか、まもりは昨日の放課後の事を思い返した。
続く
さてはて どう続くのやら?
次回、早くUPできると良いな~~・・・・。

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