ゴールデンタイムラバー
「おい、セナ。早く悪魔にお許しもらって来いよ」
「もうそろそろ切り上げねえと祭り始まるぞ」
「切り上げんなら今だろう。じゃねえと次の練習に突入すんぞ」
「おい、早く言ってこいよ。じゃねえと祭りに行けなくなんだろが」
「今ならやめるのにちょうど切りがんだから、悪魔も納得するって」
「えっ、え~…やっぱり許可をもらうのは僕なの?」
黒木と戸叶に小突かれ、セナは小さな身体をますます縮こませる。
「たりめーだろ!」
「お前がキャプテンだ・ろ・う・が!」
「おら、キャプテンさっさと行って来いよッ!!」
「え、え~…」
煮え切らないセナにしびれを切らせた黒木が思い切りセナのケツを蹴飛ばして無理矢理に蛭魔の方へと歩を進めさせた。
二年になり、アメフト部キャプテンとなったセナは、引退はしたものの、夏休みの今もまだ練習に出てくる三年生と、何かことあるごとに『キャプテンだろ!キャプテンがやれ!』と言う同級生達のおかげで、上司と部下に挟まれた中間管理職の気分を味わっていた。
今日も今日とて、黒美嵯川である夏祭りに行く為に練習は早目に切り上げるよう蛭魔に談判しろと黒木達からせっつかれていたりする。
たたらを踏みながら蛭魔の前へとやって来たセナはおずおずと口を開いた。
「あ、あの~蛭魔さん…」
「あん?」
久しぶりに計測した100ヤード走の集計結果に目を通していた蛭魔が視線だけをセナに向けたが、その視線はあまりに凶悪で、セナはカチカチに固まってしまう。
「あ、あ、あのですね……そのぉ、今日はとっても良い天気で、いやァ、ほら、なんて言うか…絶好のお祭り日和ですよねぇ~なんちゃって。あは、あははははは……」
目はうろうろ、口は呂律が回らず、後ろでこちらの様子を伺っているメンバーのげんなりした雰囲気がひしひしと伝わって来る。
いたたまれなくなったセナは、やけくそ気分で蛭魔に頼みこんだ。
「今日、5時から黒美嵯川のお祭りなんで、練習を早目に切り上げさせて下さいッ!!お願いします!!!」
「………」
最敬礼して頼んだが、内心は即座に怒声が飛んで来るか、銃弾が撃ち込まれるかドキドキだった。
しかし、どちらもなく、辺りはしずかで、セナはおそるおそる敬礼したまま視線だけを蛭魔に向けてみた。
……なんだか…嫌そう?
蛭魔は何かを考えているようで、その顔は嫌そうと言うか、何か困ってると言うか、蛭魔にしては珍しい表情をしていた。
「ああ、黒美嵯川のお祭り!屋台とかいっぱい出て楽しいものね!」
そんな微妙な雰囲気を全く感じとることなく、いつも通りののんびりした声で栗田が会話に参加して来た。
これはセナ達にとっては追い風に他ならない。
「ねえ蛭魔。いつもみんな頑張ってるし、たまには良いんじゃない?みんなでお祭り行こうよぉ。ね?」
「……ケッ。みんなでって、うちの奴らは女と行くっつー甲斐性のある奴はいねえのかよ」
栗田の言葉に嫌そうに蛭魔が悪態をつくが、当の栗田はどこ吹く風でお構いなしだ。
「そうだ!姉崎さんも誘ってあげようよ」
「はぁ?」
「ここんとこ姉崎さん、補習とかで忙しくて練習にも来れてないじゃない?受験勉強も大切だけど、たまには息抜きも必要だよ。だから、ちょうど良いんじゃないかなぁ?誘ってあげたらきっと喜ぶよ。ね?セナ君」
「へっ?あ、あぁ、そうですね!きっとまもり姉ちゃん喜ぶと思います!」
ブンブンと頷いてセナは栗田の意見に賛同した。
「あ、じゃあ、僕、まもり姉ちゃんに電話して予定大丈夫か聞いてみますね?」
「鈴音ちゃんは?来れるかなぁ?」
「今日は用事があるとか言ってたけど…一応、鈴音にも電話してみますね」
「おい」
蛭魔の呼び掛けに聞こえなかったフリをして、セナは光速の足をいかして一目散に部室へと駆け込んだ。
蛭魔の銃弾や怒声が飛んで来ない所をみると、しぶしぶながらも、蛭魔は練習を早目に切り上げて祭りに行く事を了承してくれたらしい。
セナはほっと胸をなでおろして携帯電話のボタンを押した。
数回のコールの後、受話器から耳障りの良い、涼やかな声が聞こえて来た。
『セナ?どうしたの?練習中に何かあったの?それとも蛭魔君が何かしでかしたの?!』
矢継ぎ早に聞いてくるまもりに、相変わらずだなぁと、セナは思わず微苦笑をもらした。
「いや、別に何もないから。大丈夫だよ?安心して。あの、今、電話して大丈夫かなァ?いや、たいしたことじゃないんだけどね、あのね、今日の黒美嵯川のお祭りね、練習早目に切り上げてみんなで行こうって事になったんだけど、まもり姉ちゃんも一緒にどうかな?って思って」
『……みんな?みんな行くの?』
……あれ?
ほんの僅かだが空いたまもりの返事にほんの少し違和感を感じた。
「あ、でも、みんなって言っても、一年は一年だけで行くと思うよ。全員一緒にじゃあ大人数過ぎるし、一年も気を使うだろうから」
『そ、そうね』
「うん。で、まもり姉ちゃんはどうかな来れる?」
『ええ、せっかくのお誘いだもの、行くわ』
「良かった!じゃあ待ち合わせは…」
待ち合わせ場所等の打ち合わせをして、セナは電話を切った。
結局、まもりとの会話で一瞬感じた違和感の正体に気付くことはなかった―――――。
続く
タイトルが思いつかなかったので スキマスイッチの曲から。
凄く格好良い曲ですv
これも私的に蛭魔さんソングvv
でも、この話と歌詞は全く関係ないです★
寒々しい夏祭りのお話。
秋祭りでも良かったけど、やっぱ祭りは夏でしょう!
しばらくお付き合い頂けたら幸いですv
続きは明日UP予定です。

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