libido (後編)
まもりは気持ちを切り替え、表情を整えて、観客席で待つメンバーの元へと戻った。
観客席でまもりと蛭魔の帰りを待っていたメンバーは、小さなビデオカメラの画面をぎゅうぎゅうになりながらも見つめて、一生懸命、巨深対策をあーでもないこーでもないと話していた。
少し前までアメフトなんて全く知らなかったメンバーが『クリスマスボウル』と言う同じ目標に向かって一緒に走っている。
なんて奇跡的で素敵な事だろう!
まもりは心の底から思った。
そして、自分もこのメンバーの一員である事に喜びと誇りを感じた。
再び目頭が熱くなるのを懸命に堪えて、まもりは笑顔でみんなに声をかけた。
「蛭魔君、もう少し用事で時間がかかるから今日はこれで解散ですって」
「あ、そーなんすか」
「じゃあ、打ち上げはどうなるんだ?」
「また今度やるって」
黒木の疑問に、まもりはまるで蛭魔から指示を受けていたかのように即座に答えた。
「じゃあ、俺らだけでラーメン屋でも寄って帰るか?」
「ここら辺の近くで美味い所ってどこだ?」
「大通りんとこの平いしは?」
「平いし良いねぇ」
「平いしに決まりー!」
何の疑いを持つこともなくメンバーは帰り支度を始めた。
「まもり姉ちゃんも行く?」
「まもりさんも行きましょー!」
「有り難う。でも、ゴメンね。荷物の番しとくように蛭魔君に言われたのよ」
「あ、そうなんすか?じゃあ、俺らも帰って来るまで待ちましょうか?」
「いいのいいの。私の事は気にせず行って」
モン太の提案を即座に断ったまもりの反応に、鈴音のアンテナがぴんっと立つ。
「ほら!さっさと行くよ!まも姐は妖一兄に荷物預かってくれって頼まれたんだから!邪魔しちゃ駄目だよ!」
「えっ、でも、まもりさんも一緒に…」
「良いから!行くの!」
「おい!ちょっ…いててててェェェ~!!」
「まも姐、ごゆっくり~~!んっふふふふふ」
まもりに未練たらたらのモン太の耳を引っ張って、意味深な笑みと台詞を残して、鈴音はみんなとラーメン屋へと去って行った。
「なんか鈴音ちゃんに激しく誤解された気がする……」
どう弁解すべきかしばし考えてはみたものの、良い案は浮かばず、諦めた。
それからどの位たっただろう、ようやく蛭魔が帰って来た。
「糞チビ共はどうした?」
蛭魔の態度はいたって普通で、葉柱とあのようなやり取りがあったということは微塵も感じさせない。
「糞チビじゃありません!セナ達ならもう帰りました。蛭魔君はまだ用事があるからって事で解散になったのよ」
それだけで蛭魔は全てを理解したらしい。
「…テメェは?」
「蛭魔君の荷物ほったらかして帰る訳にはいかないでしょ?」
「フン。ご苦労なこって」
「でしょ?お礼はスタバのキャラメルマキアートで良いわよ?」
まもりの言葉に蛭魔は一瞬、あっけに取られようだが、言葉を発したまもり自身も内心、驚いていた。
恩を売るき等は全くなかったが、自然と口をついて出た。
もう少しだけ一緒に居たいと思ってしまったから。
そんな事を思った自分を、まもりは我が事ながら理解出来なかった。
「…怖えぇ怖えぇ。糞風紀委員様がたかりか?」
蛭魔がニヤリと人の悪い笑顔を浮かべたので、まもりも即座に返す。
「荷物番&口止め料。安いもんでしょ?」
「ケッ、しょーがねえな」
荷物を持つとさっさと蛭魔は歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよ!」
「トロトロしてる奴は置いてくぞー」
「ちゃんと追い付きます!倒れませんし、リタイアもしません!クリスマスボウルに行くまでは」
「ほー、良い心掛けデスネェ」
「ええ。朱に交わればなんとやらよ」
「その殊勝な心掛けに免じてケーキも付けてやるよ」
「本当!?」
「クリスマスボウルへの投資と思えば安いモンだ ケケケ」
「じゃあ、いっぱい食べなきゃ」
「太るぞ」
「全部走って消化するから大丈夫よ!のんびり太ってる暇なんて無いでしょ?」
「そりゃそうだ。ま、心行くまで店のケーキ全部たいらげやがれ」
「そんなには食べません!」
「どうだか?なんたってつまみ食い~」
「もう!しつこいなぁ」
確実に自分の中が、自分の周りが、目まぐるしく変化して行っているのを感じる。
少し不安はあるけれど、嫌なものでは全く無い。
どけまで進めるか、どんな道が先に在るのかわからないけれど、きっと大丈夫。
確信を持ってまもりは一歩を踏み出した。
終わり
同じ終わり方。
韻を踏んだ感じ?
違うか★
お粗末さまでした~~~。

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