libido (前編)
葉柱ルイの仲間を鼓舞する声がフィールドに響く。
しかし、その声は仲間に届く事なく虚しく消えた――――――。
巨深ポセイドン対賊学カメレオンズの試合は42対0と言う圧倒的な大差で幕を閉じた。
賊学の敗退は少なからず泥門メンバーにも影響を与えた。
「葉柱さんたち負けちゃった…」
「人ごとじゃねーぞ。次当たんのは俺らだ。巨深対策練らねーとな」
「そうだね…。あれ?そう言えば蛭魔さんは?」
「そう言やいないな。どこ行ったんだ?」
「あ、じゃあ私、探してくるわ。ビデオカメラお願いね」
「うん」
セナにビデオカメラを渡すと、まもりは足早にスタンドを後にした。
まもりには一つだけ、蛭魔の行き先に心当たりがあったので、その足取りに迷いはなかった。
更衣室からフィールドに出る為の選手専用通路。
なんとなく蛭魔はそこに居るんじゃないかとまもりは思っていた。
何故そう思ったのかと問われれば言葉につまるが、あえて言うなら試合中の葉柱が、何故か去年までの蛭魔とダブって見えたから……。
階段を降りると微かに誰かの話し声が聞こえて来た。
気付かれないよう、まもりは細心の注意を払って歩を進める。
角を曲がればフィールドへの通路だが、まもりはそこで足を止めた。
微かだった声は今は話の内容まではっきりと聞こえる。
「俺らの世代の奴らは違う。一言目にはウゼェ。二言目にはダリィ」
この声は……葉柱君?
まもりはそっと壁越しに声のする方を覗いてみた。
やはり声の主は葉柱だった。
そして、その近くには予想通り蛭魔がいた。
「カッ!そんな奴らまとめんには…力っきゃねえ。恐怖政治しかねーだろうが!テメーだってそうだろ。そうやってチームまとめてきたんだろ」
葉柱の怒声にまもりは思わずびくっとなり気付かれないよう更に息を潜めた。
「なのに畜生。結局はバラバラだった。なんか俺が間違ってたとでも言うのかよ…!!なんでテメーんとこの奴らはテメーが怖いから頑張ってんじゃねえんだ!なんでテメーと一緒になってクリスマスボウルまで目指してやがるんだ!!テメェと俺となにが違うってんだよォオ!!」
痛い程、葉柱の悲痛な思いが伝わる。
絶望、失望、諦め、そして羨望。
様々な感情が入り雑じった葉柱の心からの叫び。
蛭魔は何も言わない。
葉柱に胸ぐらを掴まれたまま、ただ立っている。
やがて聞こえて来た嗚咽に、まもりは目頭が熱くなるのを感じて、静かにその場を離れた。
足早に去りながら、まもりの脳裏には秋大会のメンバーが発表された時に蛭魔とかわしち会話がよみがえっていた。
レギュラーメンバーの中に雪光の名前が無くて、先に帰宅の途についた蛭魔を追いかけて尋ねた。
「勝つ事より大事な事はないの?」
「ねえよそんなもん。負けたら終わりだ。あの糞ハゲにとってもな」
私はわかっていたつもりだったけど、本当にはわかっていなかった……。
あの言葉の意味も、彼の真意も。
「勝つ事より大事なものはない」きっぱり言い切って去って行った背中が思い出される。
「負けたら終わり」
足元が急に切り立った崖の上になったような、覚束無いものに感じた。
負けたら、谷を真っ逆さまに墜ちて行く……。
こんな気持ちのまま、みんなの所に戻る訳にはいかない。
まもりは客席に戻る前に瞳をつぶり、大きく深呼吸した。
大丈夫。
決して墜ちはしない。
デビルバットには羽があるんだから!
再び瞳を開いた時、足元はしっかりとしたコンクリートに戻っていた。
まもりはその感触を確かめるようにしっかりした一歩を踏み出した。
続く
毎回、タイトルで悩みます。
今回はポルノの曲より・・・・。
どんな曲なのかは知らないけど、たまたま目についたから★
前編、後編って チガウ~って思うんだけど、良い表記が思いつかないので仕方ない。
本当にタイトル考えるのって苦手~~~。

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