NEW YORK NEW YORK 後編
「なんか蛭魔さん、機嫌悪そうじゃね?」
「うん。何かあったのかな?」
夕食はホテルのレストランで種類豊富なバイキング料理を思い思い、皿に山盛りにして自由に好きな席で食べている。
出遅れてしまった二人が座る席はすでに黒いオーラが背後に逆巻いている蛭魔の座っているテーブルしか残っていなかった。
「まさか、本当は俺達と出掛けたかったとか?」
「まさか!誘ったけどけんもほろろに断られたんだよ?」
「それじゃ何が原因なんだ?」
蛭魔の顔色を伺い、こそこそ会話をかわすセナとモン太に余計に蛭魔の不機嫌ゲージは上がって行った。
「やい!糞チビ共!てめえ等のお陰でひでぇ目にあったじゃねえか!」
「えぇっ?!俺達何もしてないっすよ?!」
「間違いなくてめえ等のせいだ!」
「ひえぇ~」
竦み上がる二人に暢気な声がかかる。
「どうしたの二人とも?NYでの最後のディナーよ?思う存分食べなきゃ!」
自然な感じで蛭魔の隣りに座ったまもりの機嫌は蛭魔とは正反対でとても良い。
その笑顔を見て二人は、蛭魔の不機嫌の原因はまもりだろうと何となく理解した。
「ねぇ、セナ達はカクテルの名前クイズの答え分かった?」
「は?」
「カクテル?」
答えどころか、すでに問題をすっかり二人は忘れていた。
「あぁ、あのパセリを振り掛けるカクテルっすね!結局、答えは何だったんすか?」
まもりの説明を聞き、ようやく問題を思い出したモン太が蛭魔に尋ねた。
「この糞女の頭ん中は糖分補給の為なら常軌を逸する事もいとわねんだよ!」
吐き捨てるような蛭魔の答えにセナとモン太は首をかしげる。
「ひどい!何その言い方?!」
「いくら今、話題のアイスだからって糞さみぃセントラル・パークで食うか?!しかも3つも!!」
「だって、どれか1つなんて選べなかったんですもの。どうしても最低、3種類は試したかったのよ…。でも、今日はそんなに寒くなかったし…」
「アイス3つも貪るてめえを見てるだけで、こっちは凍死する気分を味あわされマシタ!」
「その後はちゃんとコーヒーの美味しいお店で暖まったから良いじゃない!」
「てめえはそこでも生クリームてんこ盛りのキャラメルラテなんて胸糞悪ぃモン飲むだけじゃ飽きたらず、またイチゴジャムとアイスがたっぷり乗っかったヘドの出るアップルパイなんぞ目の前で食いやがって!どんだけ糖分摂取すりゃ気が済むんだ!?この糞砂糖ジャンキー!!」
「あのお店のキャラメルラテとアップルパイは絶品って本に紹介されてたんですもの。食べてみたいじゃない!それにその後は蛭魔君の行きたかったお店に行ったでしょ」
「あ?!人がちょっと銃見ている間に次々ナンパされやがって。その度に対応させられる俺の身にもなりやがれ!肝心の銃がろくに見れなかったじゃねぇか!その上にその後はまた糞甘ぇモン次々買い食いしやがって!将来、てめえは間違いなく糖尿だ!」
「だってアレは…」
延々と続く痴話喧嘩に、セナは 部室でガイドブックを見ながら栗田とまもりが行ってみたいと盛り上がっていたのを思い出した。
あのリストアップしたお店全部行ったんだ…。
付き合った蛭魔さんも凄いけど、それに蛭魔さんを付き合わせたまもり姉ちゃんはもっと凄いなぁ。
本人達は自覚ないみたいだけど、どう見ても立派なデートだよね。
この席に鈴音がいたら、あの変なアンテナが立ってYAー!って盛り上がったんだろうなぁ。
と、喧騒をよそにチラリと少し離れた席に座っている鈴音に視線をやった。
他校のチア達と話しが弾んでいる鈴音の頭には、ちょうど恋話でもしているのか例のアンテナがピンと立っているのが見える。
そう言えば、こんなデート話聞いてショックを受けているんじゃないかかな?とこっそり隣りを伺うと、話しだけで胸焼けを起こしそうだと、蛭魔とまもりのデートなのでは?と言う事実には全く気付かず、誘われなくて良かったと胸を撫で下ろすモン太がいた。
こうしてNY最後の夜は賑やかに幕を降ろした。
帰りの空港までのバスの中、隣同士に座ったまもりに蛭魔がクイズを出していた。
「味がマンハッタンの辛口に似ていることから名付けられたカクテルはなんだ?ウイスキー2/3、ドライベルモット1/3、マラスキーノ1/2tsp、カンパリ1/2tsp」
「蛭魔君、未成年のクセにお酒に詳し過ぎ!材料言われてもわからないわよ。ヒントは?」
「地図を見やがれ!」
「うーん…もしかしてブルックリン?」
「当たり。高層ビルの建ち並ぶマンハッタンと下町のブルックリンはイーストリヴァーを挟んで隣同士だからな」
「ふーん」
カクテルの名前の由来に感心したまもりは窓の外へと目をやる。
流れる景色とももうすぐお別れの時が来る。
「決勝で負けたのは悔しかったけど、楽しかったね」
「ま、今の地力の差だ。次は違う結末にすりゃ良い」
「…うん。また…来たいね」
「あん?来たいじゃねぇ、来るだ。なんたってアメフトの本場だからな。てっぺん目指すなら来るしかねぇだろ?」
「うん。そうね。」
「ま、その頃、てめえは胸より腹が出てるかもな~ケケケ」
「なっ!?ひど…」
「YAー!何々?何の話し?!」
「蛭魔君がね、次にアメリカに来る頃には私のお腹が胸よりも出てるなんて言うのよ。ひどいでしょ…」
「YAー!凄い!プロポーズ?!」
「「はぁ?」」
興奮する鈴音にまもりと蛭魔は揃って訳がわからない。
「だってだって!お腹が出るって妊娠でしょ?その頃には俺の嫁だー!って?YAーYAー!」
鈴音のハイテンションな盛り上がりに周りのみんなも何事かとこちらを伺う。
「蛭魔が姉崎さんにプロポーズしたらしい」
「結婚するそうだ」
「妊娠したらしい」
「デキ婚らしい」
様々な無責任なデマが狭い車内に飛び交い、まもりは青ざめた。
「ち…違います!違うの!誤解よ!!」
必死に弁明するが誰もまもりの話しなど聞いてはいない。
「蛭魔君~…」
最後の頼みの綱とばかりに蛭魔をみれば、そこには我関せずな顔をした蛭魔がいた。
「蛭魔君!どうにかしてよ~!」
「妊娠すりゃ味覚がかわることがあるって言うしな、てめえのあの糞イカれた砂糖中毒を見なくて済むかもしれねぇなぁ」
「え?」
「そう言う未来もアリってな」
「えぇ?!」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる蛭魔にまもりは青ざめて良いのか赤くなるべきかわからなくなる。
「姉崎さん、おめでとー!」
「姉崎さん、考え直すなら今やで?」
「ショックMAX…」
「羨ましーっす!」
「カスが結婚なんざ笑えるぜ」
やんややんやとあちらこちらから「おめでとう」の声がかかる。
「あのね…」
困り果てたまもりに「ケケケ既成事実成立だ。諦めやがれ!歌にも有んだろ
Start spreading the news I am leaving today I want to be a part of it
Newyork Newyork♪ってな」他人事のように楽し気な蛭魔は古いナンバーをワンフレーズ口ずさんだ。
蛭魔の歌声に思わず聞き惚れたまもりだったが、すぐに我にかえり思わず叫ぶ。
「アリエナーイ!」
まもりの叫びはNYの空に響き渡った。
END
引っ張った割には…。
実はこの話しを書き上げて、タイトルを考えた時、「アップル・シティ」と「NewYorkNewYork」で悩んだんです。
…で、調べたら、「NewYork…」の方には本当に蛭魔にピッタリな曲がありまして!
この曲使いたい!ってことで急遽、蛇足と分かりながらも使っちゃいました★
蛭魔が歌ってる曲がソレです。
蛭魔が歌ってるのは曲の冒頭です。
(訳は・・・さあ、新しい噂を広めよう 今日、俺は旅立ちをする あの場所に仲間入りをするためにNY NYよ)
都会で成功する!って野心を抱きニューヨークを目指す若者の歌なのです。
野心を歌っているようでいて、最後は「それらは全て君次第」って実はプロポーズの曲なのですよ。
文字だとそうでもないですが、明るい曲なので蛭魔が歌うとしたら実際は似合わない曲です。
きっと蛭魔流にアップテンポにアレンジして歌ってるんだと思います。
他にもニューヨークにちなんだカクテルの話しを入れたかったんですが入れられなかった★
『ニューヨーク』とか『ビッグ・アップル』とかニューヨークにちなんだ名前とか、作られたカクテルって多いんですよね。
あ、クイズの答えはわかったでしょうか?
答えは『セントラル・パーク』です。
なる程!って感じでしょ?
ちなみに マンハッタンはウイスキーベースなので色は琥珀色。
モン太やセナが想像した携帯の絵文字のやつとは違います★
モン太は他にも「パセリを散らす」と云ってますが散らすのも間違いですから!
真ん中に浮かべるんですよ。
そういえば、一行書いただけでどんなお話だったか忘れてしまった作品があったんだけど、この話しってまもりがナンパされて…って、カクテルを使いたいが為に考えた話しだったかも?
確か本読んでて思いついた話し。
うーん、書けるかな~?とりあえず、ネタ切れ状態なので頑張ってみます。
このお話、前後編に分ける前のバージョンが風龍凪さまのサイト「フジワカバ」に有ります。
リンクより行けますのでよろしかったら比べて下さいませ…って言っても大した違いはないですけどね★