サクラサク
泥門の部活動は二年生の秋で引退となる。
ご多分に漏れることなく蛭魔達も一応、引退した。
が、全国優勝したとはいえまだまだ創部まもない部。
試合には出ないが後輩指導の為に三年生になった今でも部活にはかわりなく参加していた。
無敗の帝国を破ったと言う宣伝効果は絶大で、新入生の入部希望者の殺到は凄まじいものがあったが、蛭魔の非情なテストをクリアできたものはほんの僅かで、今では部員全員合わせるとどうにか攻守交代できる人数となっていた。
今日もまもりはアメフト部の部室で書類の整理に追われていた。
新しく入った女子マネの二人は良く気のつく働き者の子達で雑用はすっかり安心して任せられるようになった。
しかし、いかんせん蛭魔の相手には役不足だ。
蛭魔の出す半端無い指示を適格に書類にまとめることは出来ないので、それらは全てまもりの仕事となっていた。
最近は今のメンバーの特性を生かした作戦のプレーブック作りが主になっており、蛭魔が完全な引退に向けての準備を始めていることをまもりは感じていた。
書類作成もようやく一区切りつき、少し休憩しようとファイルを閉じた。
そう言えば…。
先月配られたプリントを鞄から取り出した。
進路希望書と書かれた用紙は第一から第三までの卒業後の進路を書いて提出しなければならない。
提出期限が目前に迫っているが、まもりはいまだに未記入のままだった。
高校を泥門に決めたのは、仲良しの友人達に一緒に泥門に行こうと誘われたから。
その友人達に大学も炎魔大学に一緒に行こうと誘われている。
まもりはその時のことを思い返した。
「ねぇ まもぉ~ 大学も一緒に炎魔に行こうよ!」
「そうそう、一緒に行こうよ!私も も炎魔大に決めたんだ」
沙羅と アコ が配られたばかりの進路希望用紙を持ってまもりの席にやって来た。
「炎魔大にはまもご希望の教育学部も有るし、家からの通学時間もそんなに変わらないし、偏差値低い割りに地元企業への就職には強いって聞くしね!」
「うんうん!それにセナ君とかアメフト部のみんなも炎魔大に進むんじゃない?」
「そうだよね。蛭魔は頭良いけど、栗田君はちょっと…じゃない?あの成績で行ける大学でアメフト部が有る所ってたら炎魔大位だものね」
「セナ君とか他のメンバーも成績似たり寄ったりっぽいし、絶対、炎魔大受けるって!」
「炎魔大でマネージャーをするも良し、私達とどこかのサークルに入ってキャンパスライフを満喫するも良し!」
「あ、でも、それって大学も蛭魔が一緒ってことだよね…」
「あー…多分…ねぇ?栗田君は炎魔大だろうから一緒にアメフトやるなら蛭魔も炎魔大だろうね」
「だよねぇ…」
「いや、でもさぁ、さすがに蛭魔も大学生になったら銃の乱射やめるだろうし、脅迫もしなくなるんじゃない?だって、大学生になったら実名報道だよ?それは嫌でしょう?」
「大人しくなるかなぁ?」
「うーん…多分。大学は生徒数も増えるし、関わらないようにすれば大丈夫なんじゃない?もしもの時はまもに守って貰えば良いし!」
「そうだよね!まもぉ、炎魔大に一緒に行こうね!ねっ!」
思い返してもかしましい二人だった。
炎魔大かぁ…。
確かに炎魔大には自分が進みたいと希望する学部が有る。
仲良しの友人達も進学するし、十中八九、セナはもしかしたどこかアメフトの強い大学からスポーツ推薦の声がかかって他の大学へ進学するかもしれない。
けれど、栗田を始め他のアメフト部員のほとんどが進学するとしたら炎魔大だろう。
ムサシは進学せず家業を継ぐかもしれないが、大学に拘りのなさそうな蛭魔は栗田と一緒に炎魔大に行きそうだ。
炎魔大に行けば、高校と変わらず、みんなと一緒に居られるかもしれない。まもりはシャーペンを持つと第一希望の欄に『炎魔大学』と記入した。
ガラッ
部室のドアが開き栗田が入って来た。
「あら?どうしたの?」
「久しぶりに100メートルのタイム計るって蛭魔が言うからストップウォッチ取りに来たんだ。マネージャー二人は買い出しに行ってるからね」
「あ、じゃあ、計るの手伝うね。えっと、ストップウォッチは…」
まもりは立ち上がると部活で使う用具の置かれた棚へストップウォッチを取りに行った。
「姉崎さんも炎魔に行くの?」
机の上に置きっぱなしにしていた進路希望用紙に書かれた大学名を見て栗田が声をかけて来た。
「まだはっきり決めたわけじゃないんだけど、友人達に一緒に行こうって誘われてて…」
「そうなんだ。炎魔大ならまた一緒にアメフトできるね!あ、大学でもマネージャーやってくれる?」
暢気に同じ大学だと喜んだ栗田は大学でもまもりがマネージャーをしてくれるのか不安になり思わず尋ねた。
「えぇ、炎魔大に行くとしたら、またマネージャーやっても良いかも」
「本当?!やったぁ!」
栗田は巨体を弾ませ、全身で喜んだ。
「炎魔大に行くの僕1人だけだったから本当はちょっと不安だったんだ。姉崎さんも一緒なら心強いや」
「えっ?ムサシ君や蛭魔君は炎魔大じゃないの?」
栗田の言葉に驚きまもりは思わず聞き返す。
「ムサシは家を継ぐ為に大学は行かないって言うから、蛭魔と決めたんだ。ムサシのいないチームで二人だけでやるなんてできない、お互い別のチームでやろうって」
「…じゃあ…蛭魔君はどこの大学行くの?」
「蛭魔?うーん、どこ行くんだろう?聞いてないんだけど…多分、西日本の大学に行くんじゃないかな?」
「西日本の大学?」
「うん、大学のアメフトリーグってね、東日本と西日本の代表チームが戦って、そこで勝ったチームがお正月に社会人チームとライスボウルで激突するんだ。三人それぞれライスボウルを目指そうって決めたんだ。僕は炎魔大位しか行く所ないし…。だから蛭魔は西日本の大学に行って西日本代表を目指すと思うよ?」
初めて聞く話しにまもりは言葉を無くした。
炎魔大に行けば今のまま高校と変わらないと思っていたのに…。
続く
4月に卒業の話って・・・・ダメ駄目ですね。
またなんか暗い話し・・・。
ラストまでの道順 すっかり忘れてるんですが・・・・どうするべ★

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