CLUB 9 (8)
蛭魔に連れられて入ったVIPルームは先程の部屋よりも広く豪華な感じがした。
正面は一面ガラス張りになっていて一階のフロアが隅々まで見下ろす事が出来た。
中央には豪華な革ばりのソファーがあちらの部屋と同じように鎮座している。
テーブルの上には手のつけられていないバーボングラスが2つ置いてある。
蛭魔とキッドのものなのだろう。
ろくに話しもできずに解散になった事がみてとれる。
「キッド君と用事があったのに邪魔しちゃってごめんなさい」
まもりはソファーに座ると蛭魔から水の入ったグラスを受け取り口をつけた。
「別に。どうせ今日は融資するって事を伝えるだけだったから」
蛭魔はまもりの正面のソファーにどかりと座るとバーボンを一口飲んで顔をしかめた。
氷がとけて水っぽくなってしまっていた。
「融資?」
「おう。高校卒業後に鉄馬と二人で会社起こすんだと。で、キッドが俺に融資してくれないかって言って来たんだよ」
「高校生に融資頼むって…」
「高校生に融資してくれる奴の方がそうそういねえだろ」
「そうだけど…融資するんだ」
「設立資金の半分な。あいつらなら10倍返しが見込めるからな」
「キッドさん達アメフトやめちゃうの?」
「いや。糞ジジイが作る武蔵工BABELSにブチ込む。ムサシのチームにはQBとレシーバーがいねえからな。ま、これが融資の条件だし」
「えっ、ムサシ君、大学行かないの!?」
ムサシの現状を考えれば大学を諦め稼業を継ぐことは十分考えれるのだが、まだ高校を卒業した後のイメージが漠然としていてみんなと離れ離れになるなんて深く考えた事がなかった。
「行かないんじゃなくて行けねんだよ。オヤジの跡を継がなきゃなんねんだと」「そっか…栗田君、残念がるね…」
「アイツはもう納得して自分の道を歩いてやがる」
「自分の道?」
「ムサシを置いて自分と俺だけが同じ大学に行くわけにはいかないってな。第二幕は敵同士の三國志ってわけだ」
「えっ?じゃあ蛭魔君は栗田君と同じ大学行かないって事?」
高校を卒業しても蛭魔と栗田は同じ大学で、同じチームでプレーするものだと思っていたまもりには驚きだった。
「ああ、行かねー。糞デブの頭でアメフト部のある大学って言えば炎魔大くらいだからな。俺が関西に行く」
「関西!?」
蛭魔が関西の大学に行くなんて思いもよらなかったまもりは強い衝撃を受けた。
「おう。社会人リーグ、関東リーグ、関西リーグで三國志っつーわけだ」
「関西…みんなバラバラになっちゃうんだ…」
「いつまでもつるんでるわけにはいかねえだろ」
「それはそうだけど…なかなか会えなくなるね」
「勝ちさえすればライスボウルで会えんだろ」
「そんな…一年に一度じゃない。七夕じゃあるまいし」
「あんな遊び呆けてた奴らと一緒にすんな。呆けてる暇なんざねんだよ」
「みんな、ちゃんと前に進んでるんだね…」
「てめえだってこんな所に来る間には自分の道さっさと決めりゃ良いだろうが。それとも何か?新しい世界でも発見しようと思ったか?」
「そんなんじゃありません。クラスの子が誘ってくれたから…」
「クラスの子だ?てめえと一緒にいたのは賊学の女だろうが」
「えっ?蛭魔君知ってるの!?って言うか私がいるっていつ気が付いたの?」
「てめえにくらい店入った瞬間に気付く。俺を誰だと思ってやがる」
「全然気が付かなかった。声かけてくれたら良かったのに…」
「男漁りの邪魔しちゃ悪いと思ってな」
「そんなことしてません!」
「連れの女はその気満々だっただろうが」
「…うん。あ、ちゃん大丈夫かしら」
「ああ言う遊び慣れてる奴は案外大丈夫なんだよ。てめえみてえなろくに知りもしねえ奴が危ねんだ。野良猫は車にひかれねえが家猫はすぐにはねられるってやつだ」
蛭魔の言葉にまもりはシュンとしてしまう。
「だいたいてめえみてえな糞優等生が来る所じゃねえだろうが。これに懲りたらこんな所に出入りすんな」
「だって…」
「だってじゃねえだろうが!またあんな目にあいてえのか!?」
「それは…」
まもりは恐怖を思い出して青ざめた。
「ったく。らしくねえ事すんな。お子様はお子様らしく夜遊びなんざせずに布団で寝とけ」
「だって、蛭魔君が」
「あ?俺がなんだ?」
「蛭魔君がこのお店の常連って聞いたから…」
「はぁ?」
「会えるかもって思って…」
「学校でも会ってんだろうが」
「うーん。たまに見かけるくらい?」
「別にそれで構わねぇだろうが」
「前は毎日話してたのに最近全然話してないじゃない?顔を合わすことすら稀で…」
「……」
「もしかして…避けられてるんじゃないかって気になって…」
「…別に、俺がてめえを避ける理由が無えだろう」
「うん。そうなんだけど…」
「別に会えないからって不都合はねえだろ?目障りなのが居なくなってスッキリだろ?」
「……そう、だね。蛭魔君ってばどれだけ言ってもブリーチやめないし、ピアスはずさないし、ネクタイしてくれないし、学校に危険な武器持ち込むし、手帳でみんなを脅迫するし、本当に好き放題だったものね…」
「てめえこそ好き放題言ってくれるじゃねえか」
「……一年の時だったらせいせいしたのに…」
「………」
「高校卒業したらみんなお別れなんだね…」
「アメフトやってりゃ嫌でも会うだろ」「…アメフトやってる時は蛭魔君格好良いよね」
「アメフトの時限定か」
「もう見れなくなるんだね」
「見れば良いだろ」
「え?」
「見たけりゃ見れば良い。アメフト続けりゃ見れるぞ」
「年に一度?」
「毎日見たけりゃ最京大に来い」
「え、蛭魔君って最京大なの!?」
「ライスボウル目指すのに手っ取り早いだろ」
「それはそうだけど…最京大かぁ…」
「どうする?一緒に来るか?」
「一緒に…」
「こき使ってやるぞ」
「大学でもこき使われるんだ…」
「当たり前だ」
「最京大…」
「糞チビと敵同士になるがな」
「何でそこでセナが出るの」
「関西に行ったら『セナをいじめないで!』って守りに駆けつけられなくなるぞって話だ」
「…セナは…蛭魔君と出会ってアメフト始めて凄く成長したと思う。ちゃんと目標を見つけてしっかり歩いてる。私が守らなくても大丈夫。強くなったわ。危ないからとか、やった事がないからとか、何でもかんでも駄目って言うのは成長や可能性を認めない事なのかもしれない。そう思うようになって私自身少しは変わったように思う。今までの自分のテリトリーから出てこんな所にノコノコ来ちゃう位には」
「……」
「私はもっと変わりたい。変われると思う。物事を多角的に柔軟に感じられるように。野良猫になりたいわけじゃなくて、家猫でも車なんかにひかれない猫になりたい。無茶苦茶だけど私の固い概念の殻を粉々に粉砕したのは蛭魔君だから…もう少し蛭魔君の側にいたい。蛭魔君の側でなら私はもっと成長できる気がする」
「俺は先生でも師匠でもねえぞ」
「蛭魔君と先生って一番遠い位置にあるように思うけど、実は天職だったりしてね?私もセナも部のみんなも蛭魔君と出会って成長できたもの」
「そりゃあメデテエこった」
「そうだよね。うん。そうしよ」
「あ?なに一人で完結してんだ?」
「え?ああ、みんなしっかり目標を目指して走り出してるじゃない?だから私も目標に向かって走り出そうって思って」
「目標?」
「うん。『めざせ!ライスボウル!』目指す場所が一緒ならみんな離れ離れじゃないものね!と言うわけで蛭魔君、また一緒に頑張ろうね!」
「おう」
すっかり元気を取り戻し、ニッコリわらうまもりに、蛭魔もニヤリと笑い返した。

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