瞳を閉じて
――――――夢を見ている。
不思議だが今、自分は眠っていて夢を見ていると言う自覚がまもりにはあった。
夢だと自覚はあるがだからと言って夢の内容が自分の思い通りになるわけではない。
自分の姿を高い位置から見ているような、ちゃんと自分の目で見ているような、視点がころころ換わる夢ならではの感覚だ。
夢の内容はどうやら放課後、風紀委員会の後、教室に鞄を取りに行く途中の廊下からグラウンドを窓から眺めている所らしい。
こちらも視点が廊下の窓越しだったり、グラウンドに立っている時のものだったり定まらない。
けれど夢の中なのでそれをおかしな事だとは考えはしない。
廊下に居るのはまもり一人で、グラウンドに居るのは蛭魔一人だ。
蛭魔はライス君相手にひたすらパスの練習をしている。
本当にただひたすら延々ボールを放っている。
夢の中だからいくらボールを投げてもなくならないんだとか頭の片隅で考えていたりする。
本当にひたすら一心にボールを放つ蛭魔。
まもりはそんな蛭魔を身動ぎもせず見つめている。
そこで唐突に意識が覚醒した。
突然過ぎた目覚めにまもりはうたかと現実の区別がつかず暫く混乱してしまった。
自分は夢を見ていたとわかり小さく安堵のため息をついたまもりはたった今まで見ていた夢の内容を思い返した。
ただひたすら一人で練習する蛭魔。
自分は現実でもあの蛭魔を見た事がある。
あれはいつだったか?
確か二年生になったばかりの頃だったか…。
たった一人で延々とボールを投げ続ける蛭魔を見て、あんな練習で良いのかと思った。
アメフトの事はあまり知らなかったが、それでもただボールを投げるだけなんて駄目だろうと思った。
試合には脅して無理やり助っ人として出すくせになんで練習には参加させないのかあの時は不思議だった。
無理やりにでも練習に参加させる方が少しでも強くなるだろうし、蛭魔にしてもパス以外の練習が出来るだろうに…。
本当にわけのわからない人だと思った。
でも、ひょんなきっかけでアメフト部のマネージャーになり蛭魔を近くで見て来た今ならわかる。
あれは彼のプライドであり、アメフトに対する真摯さの現れだったと――――。
試合はメンバーが足りなければ不戦敗だ。
だから仕方ない。
だけど練習はそうではない。
嫌々やらせるのはアメフトに対する真剣な気持ちが許せないんだと今ならわかる。
そこまで考えた時、本当に蛭魔はアメフトが好きなのだと唐突に思った。
わかりきった事なのだが改めて心の底から思った。
あの一人で延々ボールを投げ続けていた時の蛭魔の心情を思い自然と涙が溢れて来た。
こんな夢を見たのはきっと今日の試合の影響だ。
今日の試合、東京大会二回戦の相手は夕日ガッツだった。
相手チームも背水の陣で、メンバーは全員アメフト部以外の強力な助っ人で構成されていた。
メンバーが居るのに試合が出来ないジレンマとメンバーが居なくて試合が出来ないジレンマ…。
他人の心情をあれほど鋭く察知する蛭魔の事だ、何か思うところがあったに違いない。
――――どんな気持ちだったんだろう……。
枕元に置いていた携帯を見ると午前4時を少し過ぎた所だった。
まだまだ部員は足りないけれど、泥門はもう昔のように蛭魔がひたすら一人でパスの練習をするチームではないし、試合もまだまだ続く。
過去を振り返って感傷に浸っている暇は無い。
そんな事あの悪魔が許さない。
超前向きでアメフトには真摯で勤勉なアノ悪魔が――――。
悪魔のクセにね。
まもりは小さく微笑むと枕元に置いていた携帯を見た。
まだ午前4時を少し過ぎた所だった。
非常識かな?
でも相手は悪魔だし。
『次の試合も勝とうね』
少し躊躇した後、「えい!」と、まもり短い文を送信した。
送信し終えると再び睡魔の訪れを感じてまもり横になり瞼を閉じたが、耳元で突然鳴った携帯に飛び起きた。
驚くほど速攻な返信だった。
蛭魔からのメールを開くとそこには短い文が書かれていた。
『当たり前だ。寝ぼけんな』
こんなに早く返信してくるなんて起きていたのか?
もしかして私と一緒で目が覚めてしまっていたとか?
それにしても、やっぱり悪魔は口が悪い。
蛭魔君はどんな時も蛭魔君だ――――。
携帯を閉じると、まもりは安らかな眠りへと落ちて行った。
終わり
相変わらずタイトルが思いつかなくて…
夢ってキーワードで考えてたんだけど 浮かばず。
寝ると云えば目を閉じる・・・・
そういえばそんな歌詞の曲あったよな~・・・・?
瞳を閉じて君を思うよ♪でしたっけ?
蛭魔を思ってるからこの曲でよいや~~~って事で決定★
でも、瞳は閉じてないけど…。
最近、眠くて眠くて夜更かしができません。
わたしも安らかな眠りの中に逃げ込みます!

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