「蛭魔君。終わった?」
「おう」
三年生になった今も蛭魔をはじめ三年生組は相変わらず部活に出ている。
今日は春の大会へ向けての新入生の体力テストを行った。
さすが去年、全国優勝した効果は絶大で、今年は新入部員に困ることはなかったが、新入部員全員はいレギュラーと言う訳には行かない。
今年もテストによって様々なデータを集めた。
本来ならレギュラーの選抜等は新キャプテンであるセナに任せれば良いのだが、セナに任せると新入生の希望通りのポジションに振り分け、ランニングバックが11人なんてあほなポジションわけがなされたので、舌打ちをしつつ蛭魔がポジションわけの選考を今年も行っていた。
「ま、こんなもんだろ。後は実践形式の練習しながら微調整ってとこだな」
「お疲れ様。じゃあ、はい、ここ。どうぞ?」
「………何の真似だ?」
「お疲れ様な蛭魔君を労る為?」
「………。」
蛭魔は胡散臭げにまもりを眺めるが、まもりはそんな蛭魔の様子など一向に気にしない。
「はい。蛭魔君、どうぞ!」
「フザケんじゃねえ」
「何よ。フザケてなんか無いわよ!良いからどうぞ!」
少し頬をふくらませてまもりは今迄よりも強い口調で言った。
_______その頃、セナとモン太と鈴音は部室へと引き返していた。
体力テストだけだったので今日の部活はいつもよりも早く終了した。
三人は駅前のハンバーガーショップで色々おしゃべりをしていたのだが、やはりどうしても新入部員、特に中坊のテスト結果が気になり、ダメ元でレギュラーメンバーの名前を聞きに引き返して来たのだった。
「あ、まだ電気ついてる!」
「良かったね。蛭魔さん達、まだいるみたいだ」
「しかし、テスト結果なんて教えてもらえるかぁ?」
「うーん、やっぱり無理かなぁ?」
「しー!静かに!」
先頭を歩いていた鈴音がいきなり立ち止まり振り返った。
「ど、どうしたの鈴音?」
「なんだなんだぁ?」
「ンっふっふ~」
振り返った鈴音の顔はイタズラを思いついた時の顔で、頭には例の恋話アンテナがピーンと立っている。
そんな鈴音の様子にセナとモン太は一瞬で悪い予感を悟る。
「今、あの部室の中は若い男女二人っきりの密室!みんなが帰った後、あの二人は部室でどんな様子なのか?何をしているのか?!知りたくない~?」
ムフフと笑う鈴音にセナは脱力感に襲われる。
まもりはともかく、相手は蛭魔だ。
蛭魔の秘密を盗み見ようなんて恐ろしいこと考えたくもないし、密室と言ったって所詮は部室だ。
蛭魔はともかく、まもりがそんな覗かれて困るような事をしているハズがない。
「鈴音…」
落ち着いてと、セナが鈴音を諭すより早く、隣のモン太の導火線に火がついた。
「ま、ま、ま、まもりさんが…そ、そ、そんな…$≦¢£♂〆*§@≠★◎‰ムッキーィィィッ!!」
「モン太!落ち着いて!言葉になってないよ!文字化けしちゃッてるよ!まもり姉ちゃんがそんな事するわけないだろ?!」
妄想の衝撃で混乱していたモン太は、セナの言葉になんとか我にかえった。
「そ、そうだなセナ。すまねえ。俺としたことがつい、取り乱しちまったぜ」
動揺を隠しきれてはいないが、なんとか落ち着きを取り戻したモン太にセナはほっと胸を撫でおろしたが、それも束の間。
「わからないよ~?なんたって青春真っ盛り、血気盛んなお年頃だよぉ?密室でうっかり手と手が触れあって、なんとな~くそう言う雰囲気に…なんて事も有りじゃない?」
「!!£$※♀▼ё!!?」
「モン太!しっかりして!もう、鈴音!」
「あははーゴメンねぇ。ま、部室をこっそり気付かれないように覗けば大丈夫だよ?ね?覗いて見ようよ」
悪びれた様子もなく鈴音はそう言うと、何でローラーブレード履いてて音が出ないんだ?と不思議なほど音を立てる事なく部室へと向かう。
ため息をつきつつもセナは崩壊寸前のモン太と共にやはり音を消して部室へと歩いた。
気付かれないよう、細心の注意を払い部室のドアをほんの少しだけ開ける。
細い隙間から見える範囲に二人の姿はない。
息を殺して耳をすませているとまもりの声が聞こえて来た。。
「蛭魔君…もしかして緊張してる?」
ボソボソと話す声は聞こえるがやはり姿は見えない。
「緊張しなくても大丈夫だよ?」
微かにまもりが笑っているのを感じる。
「ねぇ、もしかして蛭魔君って…こう言うこと人にやってもらうのって初めて?」
な、何を!?
思わず身を乗り出しそうになるのを鈴音はぐっと堪える。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だから…安心して力抜いて?」
見たい!
何やってんのか見たい!
「わぁ、大きィ。ねぇ見て、こんなの…」
な、何が?!
神経を研ぎ澄ましてなんとか中の状況を把握しようとするがままならず歯痒い。
「蛭魔君…ねぇ、気持ち良い?私、上手でしょ?」
不穏な気配を感じて横を見ると、モン太が真っ青な固まっていた。
あーあ…ダメだこりゃ…。
早々にモン太に見切りをつけて再び耳をそばだてる。
「あン…動かないでよ。こそばゆいじゃない。お願いだからじっとして」
ゴクリと唾を飲み込み、思わず身を乗り出した瞬間、鈴音は足がもつれてセナに倒れこみ、そのままセナもろともドゴン!とドアに思い切り鼻をぶつけてしまった。
ガラリ
勢い良く開いたドアの向こうに立っていたのは悪魔。
「てめえら、何こそこそしてやがんダァ?」
「セナ?鈴音ちゃん?どうしたの?大丈夫?」
蛭魔の後ろからひょっこり現れたまもりの手には…。
「……まも姐…もしかして妖一兄の耳掃除してた…の?」
「えっ?そうだけど?みんな、どうしたの?」
「あ、あははははは…ハァ…」
ゲスの勘繰りをしていた三人は、単にまもりが蛭魔の耳掃除をしていただけだとわかり一気に気が抜けてしまい、乾いた笑いが自然と口からこぼれる。
もう笑うしかないのだ。
「レギュラーメンバーを聞きに来たの?でも、ごめんなさいね。まだ発表はできないわ」
暖かいコーヒーをみんなの前に置いて行きながら、まもりは申し訳なさそうに謝った。
「いや、いんだよ。ダメ元だったし。気にしないでよ、まもり姉ちゃん」
「そうッスよ!全然まもりさんは悪くないんすから!」
蛭魔と勘違いだとわかった途端、単純なモン太は一気に復活しただけではなく、まもりの入れてくれたコーヒーに気を良くして一人盛り上がっていた。
「ねぇねぇ、耳掃除してたってことはもしかしてまも姐、膝枕?」
「まもりさんの膝枕!ウキィー!」
“まもりの膝枕”に反応したモン太はまもりに膝枕してもらっている自分を想像して夢の世界にどっぷり行ってしまった。
そんなモン太はうるさくなくて幸いだと、鈴音は気にもせず質問する。
「ねぇねぇ、何で耳掃除なんてしてたの?頼まれたの?」
「えっ?えぇっとね。蛭魔君、疲れてそうだったから少しリラクゼーションの一環で、ね?」
「やー!まも姐の膝枕なんて妖一兄、気持ち良かったでしょう?」
「あん?いつ鼓膜破られるかドキドキでリラックスなんか出来るか。あんなん一種の拷問だ」
「なんですッて?!」
「またまた妖一兄ったらそんなこと言って~!気持ち良かったクセにぃ!素直じゃないんだからァ」
「お前ナァ…」
「鈴音ちゃん…」
「ねぇ!やっぱり二人は付き合ってるの?ねぇねぇ、どうなの?」
「えっ、あー…、あ、そうそう、ねぇ、鈴音ちゃんは耳垢のタイプはウェット?ドライ?」
「えっ?耳垢?私はウェットかな」
「僕はドライ。モン太は?」
「はっ、耳垢のタイプ?俺はドライッス!」
「耳垢のタイプで何か有るの?」
「この前、テレビで言ってたんだけど、ドライとウェットって、お互いタイプが違う方が相性が良いんですって」
「ええ?!何で?!」
「遺伝子の関係だろ。遺伝子ってのは似てないほど相性が良いんだよ。ウェットとドライだと遺伝子的に違うからな。縄文人と弥生人の違いだ」
「へー、じゃあ、私はウェットだからセナ達と相性良いんだ!」
「あはははは…そうだね。あ、鈴音、もうこんな時間だよ!今日、観たいテレビがあるって言ってなかった?」
「あ!本当だ!ヤバイ!昨日アニキが夜中までビデオの編集やってたからテレビつかえなくって、朝やろうと思ってたのに寝坊してすっかりタイマー録画し忘れたんだよね。早く帰らなきゃ!」
「あ、後は片付けておくから、大丈夫だから帰って良いわよ」
「本当?ゴメンね!ありがとう!」
わたわたと鈴音達は慌ただしく部室を飛び出して行った。
「気を付けてねー!」
ニコニコと手を振って鈴音達を見送っていたまもりだったが、三人の姿が遠く、見えなくなった途端、一気に脱力した様子で大きなため息をついてその場にへたりこんでしまった。
「はぁ~………」
「あん?どうした?」
「恥ずかしい…。耳掃除してるとこ知られたなんて…ハァ…」
「下手な情報収集しようとするからだ」
「うっ…。だって…一石二鳥だと思ったんだもの」
「あん?」
「蛭魔君の耳垢のタイプがわかって、その上に蛭魔君が気持ち良くてリラックスできる…」
「…バーカ。リラックスなんざ必要ねえよ」
「リラックスもたまには必要よ?…気持ち良くなかった?」
「別に。気持ち良くねえとは言わねえが…二度と部室じゃやらねえ」
「えぇ?やっぱり気持ち良くなかった?」
「リラックスどころか拷問なんだよ!」
「えぇ!?そんなに怖かった?結構、上手だと思うんだけどなぁ…」
「あー…もう良い。帰るぞ」
「あ、ちょっと待って!急いで片付けするから!」
急いで立ち上がるとまもりはテーブルの上を片付け始める。
蛭魔はそんなまもりを眺めながら、つくづく面白い女だと思う。
「…で?」
「なに?」
片付けを終え、帰り支度を整えたまもりに蛭魔は質問を投げ掛けた。
「情報収集の結果は如何デシタカ?」
「!!…………嬉しかったです」
真っ赤な顔でうつむくまもりに蛭魔は満足気な笑みを浮かべた。
終わり
どうでしょう?
多少は色っぽかったですか?
どうですかね?
ダメ?
こんなんじゃダメ?
うう~ん ない頭ひねったんですけどね?
次回精進します!!

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