FlyingGet
立春を過ぎ、暦の上では春となったがまだまだ寒い日が続いている。
そんな中、泥門高校のグラウンドでは3月に開催されるワールドユースむけて、選抜メンバーによる練習が行われていた。
開催まで一ヶ月を切った今、練習は熱気を帯び、苛酷なものだったが、弱音を吐く者は誰一人居らず、なかなか揃えないメンバーとのレベルの高い練習に喜びと充実を感じている者ばかりだった。
ハードな練習に耐えるメンバーの為にまもり達は練習の合間にチョコレートを準備した。
バレンタインにはまだ2日早いが、大和をはじめとする関西組は今日の最終で帰ってしまうので仕方なかった。
練習終了後、一つ一つ綺麗にラッピングされたチョコレートを貰いみんなの顔が戦士のそれから、年相応の高校男子のものに変わる。
すぐに開けて食べるもの、大切にバッグにしまう者、反応はそれぞれだったが、みな一様に嬉しそうだった。
そんな中、鈴音の提案で親睦をはかる為のイベントが開催された。
名付けて『まも姐特製バレンタインハートチョコお口で空中キャッチ争奪戦!』
「ははは、やはり泥門は面白い事を考えるな」
爽やかに笑う大和だが、チョコレートを食べながら本を読んでいる鷹同様、参加する気は無いらしい。
チョコレートを女子で唯一のQBである花梨が投げると言う事で、アキレスは参加をかなり迷っていたが、クールな者が多いこのメンバーの中ではじけるのは気後れしてしまい羨ましそうに眺めるに留まった。
「ま、まもりさんの手作り特製ハートチョコは俺がお口キャッチする!キャッチなら誰にも負けねー!愛MAXー!」
「猿君には悪いけど、どんな事だろうとキャッチの事ならナンバー1の座は譲れない。鬼燃えるぜ!」
「アーハー!二人とも格好良いじゃないか!でもキャッチするのはこの僕だよ!」
何かに熱中し、己れの力を信じて戦うする男の姿は確かに格好良い。
だが、この三人が挑むのは『ハートチョコ争奪戦』。
しかも『お口でキャッチ』。
どんなに凄んでも悲しいかな、端から見たらお調子者の馬鹿にしか見えない。
が、三人は至って真剣だ。
お遊びの余興に火花を散らす三人に蛭魔がちゃちゃを入れる。
「10個に1個ケルベロスのウンチ」
「そんなもの投げません!」
花梨が速攻否定する。
ニヤニヤと笑いながらトングをカチカチ鳴らす蛭魔の後ろでケルベロスは虎視眈々と狙っていた―――――。
その後、モン太、一休、夏彦を襲った悲劇は、メンバー達に決して忘れることの出来ない記憶として脳裏に深く刻みこまれた…。
短いが、その分、内容は超がつく程ハードだったワールドユース選抜メンバーの泊まり掛けでの練習は終了した。
それぞれ新たな決意を胸に、三々五々帰って行く中、まだ片付けをしていたまもりの元へ大和がやって来た。
「姉崎さん。今日はありがとう。姉崎さんのおかげでのびのびと練習が出来たよ。泥門の強さは姉崎さんのサポートがあってこそだと思ったよ」
「そんな風に言ってもらえるなんて嬉しいわ」
照れてほんのり頬を染めるまもりを、大和は眩しそうに目を細めて見つめる。
「姉崎さん。今日もらったチョコレートだけど、良かったら14日も貰えないかな…」
「……それって…」
真剣な表情の大和にまもりは一瞬、言葉がつまった。
「大和君って、チョコレート大好きなのね」
いつもの勘違いをしたまもりがニッコリと笑うと、大和もニコリと笑顔を返す。
「ははは、そうじゃないよ。チョコレートは好きだけどね」
「えっ?」
バレンタインに男子がチョコレートを欲しがる理由にたどり着き、まもりはどきまぎしてしまう。
「…それって…」
「うん。貰えるかな?」
「……ごめんなさい」
「誰かあげる人が居るの?」
「…うん。チョコレートなんてもらってもらえないのは分かってるんだけど…」うつむき、だんだん声が小さくなるまもりに、大和はまもりの心情を悟った。
「そうか…。なら、まだ望みは有るね」
「えっ?」
「諦めずにタックルするよ。なんたって俺は倒れない男だからね」
そう言うと大和は軽くウインクした。
わざとおどける大和に、まもりも少し笑顔を取り戻す。
「ワールドユース、一緒に頑張ろう」
そう言って差し出された手をまもりも握り返して握手をかわす。
と、突然、手を引かれたせいでよろけてしまい、まもりはその勢いで大和の胸に倒れこんだ。
気付けば大和にがっしり抱きしめられた状態で、まもりはあわてふためくが、大和はびくともしない。
それどころかますます強く抱きしめられ、息苦しさも相まってまもりの胸のドキドキが加速する。
「僕は諦めないよ。だから姉崎さんも頑張って」
耳元に耳触りの良い低い声で囁かれ、まもりは背筋がゾクリとするのを感じた。
抱擁はほんの数秒の事で、すぐに解放されたが、身体が離れる瞬間、大和はまもりの頬にキスをした。
声もなく、真っ赤になるまもりに大和は「親愛のキスだよ」と言って爽やかな笑顔を見せた。
「おい、糞マネ。イチャつくのは片付けが終わってからにしやがれ」
突然、背後からかけられた声にまもりは驚いて飛び上がる。
恐る恐る背後を振り返ると、そこに立っていたのは不機嫌そうな蛭魔だった。
「片付けが終わらねえと帰れねんだよ」
「…あ、ごめんなさい」
顔を真っ赤にして謝るまもりに蛭魔の眉間のしわが深くなる。
「蛭魔氏、すまない。姉崎さんを引き留めたのは俺だ。姉崎さん、今日はありがとう。俺との事、真剣に考えてみてくれ」
「………」
「蛭魔氏もすまなかった。それじゃ、また!」
「おー、とっとと帰りヤガレ」
何処までも爽やかに颯爽と大和が去って行く。
フンと鼻を鳴らすと蛭魔はさっさと踵を返して部室へと戻って行った。
何だか機嫌悪そう…不機嫌そうな蛭魔の背中を見ながらまもりも後に続いた―――――。
手際よくてきぱきと動いたので片付けはそうたいした時間もかからず片付いた。
「おら、さっさと帰るぞ」
まもりの片付けが終わったとみるや蛭魔はカバンを抱えドアへと向かった。
「お待たせ。ごめんなさい」
慌てて部室を飛び出して来たまもりが謝ったが、蛭魔は返事を返す事なく無言で鍵をかけた。
部活が遅くなった時、蛭魔は家の近くまで送ってくれる。
いつもは楽しい帰り道が今日は無言の蛭魔のせいで居心地が悪い。
もうすぐ家だ。
この居心地の悪さから開放される。
そう思うと少しほっとするが、蛭魔の不機嫌の理由が気になる。
私、何かしたかしら?
今日1日を思い返すが、これと言った理由は思いつかない。
練習中の蛭魔は本当に嬉しそうで、楽しそうで、とてもイキイキしていて、見ていたまもりも嬉しくなった。
練習が終わってからも変わらず機嫌は良かったはずだ。
片付けが遅くなったから…かな?
思い当たることと言ったらそれ位だが、たかがそれ位で蛭魔の機嫌が悪くなるとは思えない。
「ねぇ、蛭魔君。怒ってる?」
「別に」
気になったまもりは蛭魔に尋ねてみたが返事は素っ気ない。
「怒ってるでしょう?」
「別に怒ってねえ」
「じゃあ、何でそんなに機嫌が悪いの?」
「別に機嫌なんざ悪くねえ」
「ねえ、なに怒ってるの?」
「別に怒ってねえって言ってんだろが」
「蛭魔君が怒る理由が思いつかないのよね」
「だから別に怒ってねえつってんだろうが!ちったぁ人の話し聞きヤガレ!」
勝手に話しを進めるまもりに蛭魔は苛つくが、まもりは頓着しない。
「どう見たって怒ってるじゃない」
「テメエは何でもかんでも自分の物差しで物事決めつけるの止めやがれ」
「何それ。私が何、決めつけたって言うの!?」
「あー……、もう良い。アホらしい。ヤメだ、ヤメ」
珍しく何かを言い淀んだ蛭魔がいきなり話しを打ち切った。
「ちょっと!私が蛭魔君の何、決めつけたって言うのよ!?大体、チョコレートなんて絶対、受け取らないでしょ蛭魔君は!!」
「それが決めつけだっつってんだ」
「じゃあ、バレンタインデーには受け取ってくれるのね!?受け取ってよ!?絶対よ!?絶対だからね!!」「うるせー!受け取りゃ良んだろ!受け取りゃ!」
「そうよ!」
売り言葉に買い言葉。
バレンタインデーにまもりは蛭魔にチョコレートを渡し、蛭魔はもりからチョコレートを受け取ると約束が出来上がってしまった。
「じゃあな!」
言いあいながら二人はいつの間にかまもりの家の前まで来ていた。
「約束だからね!学校休まないでよ!逃げないでよ!!」
振り向くことのない蛭魔の背中に約束を取り付ける。
天使が悪魔にチョコレートを渡した。
悪魔が天使からチョコレートを受け取ったと、泥門高校が大騒ぎになるのはほんの未来の話し。
ENDv
・・・・・で?
そんだけど~★
昨夜、家族で温泉行きまして、2度目のお風呂に入りに行った家族を待つ間に書きあげました★
タイトルが思いつかなかったのでまた後でUPします~~。
とりあえず、今日の夕方のお話だったので 急いでUP!
ちょっち時間が無いのでまた後で!!
タイトルは『バレンタイン』で考えていたのですが 思いつかなくて・・・・。
フライングでチョコレートGETが決まったって事で このタイトルにしました★
AKBのこの曲も好きですが、英語バージョンのGILLEのカバー格好良いよねvv

PR