春休み真っ最中の日曜日だが泥門高校アメフト部には一切関係なかった。
クリスマスボウル優勝以降、とにかく練習試合の申し込みが殺到している。
クリスマスボウルで優勝したとは言え、まだまだ経験の浅いメンバーを一気にレベルアップするには実戦が一番と、蛭魔が片っ端から受けるものだから休んでいる暇など無いに等しい状態で、書く言う今日も近県の高校と練習試合だった。
試合は終始泥門ペースの快勝で終わった。
勝利に盛り上がる部室の中、何故かどこか憂いを帯びた表情を浮かべるまもりがいた。
今日だけではない。
ここ数日、まもりの様子がおかしい事にメンバー全員、気付いていた。
もしかしたら、今日の勝利でいつものまもりに戻るかも…と考えていたメンバー達は勝利に盛り上がりながらも、胸のうちでは少々落胆していた。
そんな中、爆弾は投下された―――――。
春色爆弾
「蛭魔君……私、妊娠したみたい」
帰宅準備をしながら賑わっていたアメフト部の部室は、まもりがぽつりと呟いた一言によって水を打ったように鎮まりかえった。
いや、氷りついたと言った方が正しい雰囲気となった。
「ほう。そりゃ、てめえ運が良いなぁ」
蛭魔はどこから取り出したのかルーレット台の上に一枚の紙を置いた。
「喜べ。今日は俺の誕生日だ。法律で結婚が許される年齢になったってワケだ。」
「「「えぇっ!?」」」
突然の蛭魔の発言に全員が一斉に驚きの声をあげた。
「……誕生日なんてあったんだ」
「いや、そりゃあ有るでしょう…」
戸叶の呟きにすかさずセナがツッコミを入れた。
「そうなの?!」
まもりは台の上の紙を取ると内容を確認した。
茶色い縁の紙は紛れもない婚姻届けで、記入欄の半分は特徴的な字で全て埋められていた。
今まで極秘とされ、クリスマスボウル直後に付き合いだしたまもりでさえ知らなかった生年月日がきっちり書いてある。
「マジで誕生日があったんだ」
「誕生日より俺は戸籍が存在してる事に驚きだ」
ぎゅうぎゅうになりながらもまもりの後ろから紙をのぞきこむメンバーから様々な声が上がる。
「いや、それよりも驚くことはあんだろ…」
十文字の言葉にメンバーは一斉にはっとした。
「ま、まもりさん…に、に、に、妊娠したって本当っすか?!マジならショックMAX――!!」
「蛭魔さん。これって……その…婚姻届け…ですよね?」
「離婚届けじゃあねえなぁ」
「ですよね……あはははは…」
「結婚?!マジかよ?!」
「アハハ―!おめでたいね!」
「うわぁ!蛭魔ァ~。姉崎さん。おめでと~!!」
部室が混乱と祝福に包まれる中、婚姻届けをじっと見ていたまもりがいきなりビリビリと用紙を破いてしまった。
「まもり姉ちゃん何するの!?」
セナが驚き止めるが婚姻届けは既に細かい紙クズとなっていた。
「蛭魔君。結婚詐欺でもするつもり?」
「な、なに言ってるの まもり姉ちゃん」
「だって、本籍地が泥門高校ってあり得ないでしょう?!」
「「「…………。」」」
全員の呆れた視線が蛭魔に向けられたが、当の蛭魔は全く悪びれた様子もなく、ニヤニヤ人の悪い笑みを浮かべている。
「てめえの糞つまらねえイベントに付き合ってやったんだよ」
「イベント?」
何のことかわからないメンバーに蛭魔が種明かしする。
「今日は糞4月馬鹿の日だろうが」
「「「ああ!」」」
今日が4月1日だと言う事に思いいたり、全員が納得する。
「なんだァ!結婚ってのは嘘かよ」
「おかしいと思ったぜ」
「悪魔に結婚なんて神聖なもん、似合わねえもんな」
「ビックリしたぁ~」
「じゃ、じゃあ、まもりさんの妊娠も嘘なんすか?!」
「うん。ごめんなさいね。ちょっとくらい蛭魔君、動揺するかと思ったんだけど全然駄目だったわ。ここの所、ずっと一生懸命考えてた嘘だったのに」少し恥ずかしそうに微笑むまもりに、モン太は涙を流して喜んだ。
「やったー!!良かったー!幸せMAX――!!」
「まも姐がここの所、考え込んでたのって…」
「エイプリルフールの嘘だったんだね……あははは…」
「心配してたけど、良かったー!」
部室は一気に安堵の空気で満ちる。
「ホッとしたらなんか腹減って来たな」
「俺も!」
「今日の試合の打ち上げも兼ねて何か食いに行こうぜ」
「何 食う?」
「ファミレスか?」
「あ、僕の家の近くに安くて量が多くて美味しい定食屋さんがオープンしたんだけど行く?」
「へぇー。行く行く!」
エイプリルフールのことなどすっかり忘れて皆は賑やかに部室の外へと出て行く。
「妊娠したってのは嘘でもそう言う行為をしてるのは本当なんだよな…」
賑やかに歩くメンバー達の後をとぼとぼと歩きながら十文字は気付かれないように深いため息を一つついた。
終わり
えーっと、エイプリルフールのお話しでした★
ホワイトデーは逃しちゃったのでエイプリールフールでリベンジ!!と思ったのですが・・・
笑ってもらえました?

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