赤い目を擦り、名残惜しそうに立ち去るガキども。やつら一人一人に手をふる律儀な女。
「お疲れ様でした―!」
「今まで有り難うございました―!!」
ガキどもがない脳絞って考えたらしい追い出し会は、栗田が糞甘いケーキを感極まった一人で喰った以外たいした混乱もなく終了した。
まもりは後片付けはやると言うガキどもの申し出を断り、いつもと同じように片付けをしていた。物好きな女だ。
俺もいつもと同じように、まもりが片付けをしている後ろで悠々とブラックコーヒーを飲みながらパソコンをいじる。
いつもと違うことと言えば、まもりが無自覚なのか、時折溜め息をこぼすこと。
どうせ『この同じ光景も今日が最後だと思うと寂しいだとか、センチメンタルな気分になるわ』とか感傷にひたっているのだろう。
アホらしい。
まもりはいつもより念入りに隅々まで部室を綺麗に磨きあげていた。
「蛭魔君、コーヒー飲み終わった?飲み終わったなら洗うから貸して」
「おう」
残りを一気に飲み干し、俺はいつものようにコーヒーカップをまもりに差し出した。
とたんに泣きそうな顔をするまもり。
その細い腕を引き寄せて、柄にもなく慰めてやろうかと血迷ったことを考えた。
「やっぱり最後だと思うとなんだか寂しくなっちゃうわね」
簡易キッチンから聞こえる声は些か震えている。
泣きてぇなら泣きゃぁいいものを…
俺以上に素直じゃねぇな。
コーヒーカップを洗いながら、なんともないような振りをして話しかけたところでバレバレだ。
「ケケケ。見上げた奴隷根性だな」
「もう、すぐ茶化す!蛭魔君だって寂しいでしょ?」
「別にぃ。いつまでも感傷に浸るほどヒマじゃねんだよ」
「素直じゃないんだから。本当に可愛くない」
「可愛くてたまるか」
「確かに」
いつもの調子で軽口を叩けば、クスクスと笑う。
そうだ。
てめぇはずっと俺のそばで笑えばいい。
カップをおいた時点でまもりは全ての片付けを終える。
まもりはくるりと部室を見回して、溜め息をついた。
「おわっちゃった」
「お――ご苦労さん」
終わりなんてもんは限りねぇが、ひとまずの区切りとして労ってやる。
「過ぎてみればあっという間だったね」
「時間なんざいくらあっても足りねんだよ」
お前を完全に染めるには足りない。
「本当にね。でも、マネージャーをやったおかげでとっても充実した時間を体験できたわ」
「そりゃあ何より」
俺が与えたかったのはそんなもんじゃねぇ。
「蛭魔君。お疲れ様」
きれいに笑うまもり。
俺は手放すつもりはねぇ。
さぁ、最後のテストだ。
「おー。てめえもな。今日で奴隷は解放だ。後は好きにしやがれ」
「奴隷解放?」
「おー」
「…好きにして良いの?」
「おー」
これで俺の三年間の計画は完成する。
いつも言ってるだろう?
俺の計画が狂ったことはねぇ。
「……じゃあ……マネージャーする」
「あぁ?」
「大学でも蛭魔君の居るアメフト部でマネージャーする!」
ほらな。
だが俺は優しいから逃げ道だって示してやる。
「奴隷は解放って言ってやってんだろうが」
ここで俺の手をとるならば
お前は一生俺の………
「そうよ?私の好きにして良いんでしょ?だから私の好きにするの。高校のマネージャーは蛭魔君って言う悪魔からセナを守る為だったけど、大学のマネージャーは自分の為にするの。良いでしょ?」
「物好き」
「…かも」
「てめえの見上げた奴隷根性に敬意を表してこれをやる」
「何?……予定表?……さっきパソコンで打ってたのこれだったの?」
「おー、俺の予定は狂った事がねえからな」
「……蛭魔君の思惑通りに動いたみたいでちょっとムカつく気もするけど……そうそう蛭魔君の思い通りには行かないんだから覚悟しといてよね!」
「おー、せいぜい頑張って下サイ。ケケケ」
お前は一生俺の奴隷だ。
姉崎まもり 希望進路は最京大学アメフト部マネージャーです――――。
ただし…
俺もお前に囚われてるんだ。
蛭魔妖一
希望進路、姉崎まもりの夫
奴隷だって悪くはねぇな?
終わり
風龍凪さん 有難うございました~~~~!!!
甘いよんv
また ぜひよろしくですvv

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