SUITE 中編
「妖一!!」
憤怒の形相でまもりは自宅マンションのリビングに飛び込んだ。
セナの家から自宅まで、小型機でのフライトと言う結構な時間があったのだが、まもりの勢いはセナの家を飛び出したままを保っていた。
「うるせーぞ!んっな糞でけぇ声出さなくても聞こえてマスヨ」
蛭魔はリビングのソファーに寝転がり巨大スクリーンで録画しておいた昨日の試合を観ている所だった。
蛭魔の目は画面を見つめたまま、チラリともまもりには向けられない。
その事に微かな痛みを覚え、蛭魔の視線に入るべく、まもりはスクリーンの前に立ち塞がった。
「コレは何!?」
「外国暮らしで漢字が読めなくナリマシタカ?」
顔面につき出された紙切れを蛭魔は興味の全くない顔で眺める。
「そう言う意味で聞いてません!私と別れても構わないの?!」
「てめえがそれを望むなら構わねぇ」
蛭魔は起き上がりリモコンを持つと画面を消した。
「…どうでも良いってこと…?」
微かに言葉が震える。
「違うだろ?てめえが離婚してぇならしても構わねぇっつってんだ」
「何が違うって言うの」
「気持ちの有り様が違う。てめえがどんなに地の果てまで逃げようと俺はすぐに追い詰めれる。やろうと思えばてめえの意思なんざ無視してどうとでもできる。でも、やらねぇ。どうしてかわかるか?」
「…どうして?」
「それがてめえが知りたがってる答えだ」
「…?!」
「俺は白か黒か、敵か味方か、必要か不要か、0か100かだ。中途半端なものは要らねぇ。んっなもん俺には無い」
「私を…きっぱり切り捨てるってこと…?」
喉がカラカラに渇きうまく発音出来ない。
「言ってるだろ?捨てるんじゃねぇ。解放すんだよ」
「解放…」
「てめえの意思を尊重してやる。その紙切れにサインした時、てめえは白でも黒でもねぇ、特別な存在になんだ
よ」
「それって…」
「てめえも日本人の端くれなら悟りやがれ。言葉なんざどうとでも操れる陳腐なもんだ。てめえは俺の本気が知りたかったんだろ?」
「!!」
「いつでもてめえが望めば解放する。自由にする。それが俺の本気であり誠意だ。さあ、てめえは何を望む?」
「…ジェニファーって誰?」
「あん?」
「ブレンダって誰?」
「…。」
「ロザンナって誰?」
「…てめえ…何を知ってる?」
「…ごめんなさい。悪いと思いながら携帯盗み見したの…」
「誰に何か言われたか?」
蛭魔はため息をついて天井を仰いだ。
「ケリーとステファニーに浮気しない男なんてこの世に居ないって言われてつい…」
「『Sex and the city』やら『DesperateHousewives』を地で行くような糞奥様共の戯れ言を信じたってワケだ?」
「だって…その、ちょっと思い当たることあったし…」
「あん?」
「実際、携帯には知らない女の人の名前がいくつも有るし…」
「てめえは俺の用心深さ知ってるだろうが?」
「ええ…」
「バレたくねぇようなネタが有る携帯を見られるようなヘマを俺がすると思うか?」
「…思わない。…!! 最近、ツイッターやブックフェイスの書き込みが原因での離婚が増えてるって聞いたけど、もしかして…私にわざと携帯を覗き見させて離婚に仕向けようとしたの!?」
「糞!俺がんっな回りくどいことするか!離婚する時は息の根止めてきっぱり切り捨ててやる!」
「酷い…」
「おら、見てみろ」
そう言うと蛭魔はまもりに自分の携帯を投げてよこした。
「何でも良いから操作してみろよ」
ニヤリと笑っている顔から何か企んでいるのが分かる。
「…爆発とかしない?」
「アホか。するワケねぇだろう」
まもりは渡された蛭魔の携帯を見る。
別段変わった所は無い。
最新のスマートフォンのタッチパネルに触れてみた…が、画面は変わらなかった。
「えっ?」
色々触ってみるが、どんな作業も行えない。
「これって操作できないようにガードかかってるの?」
「近いが違う。このタッチパネルの画面自体がフェイクだ。解除しない限り操作は出来ねぇ。その上、このフェイク画面の面白い所は自分以外の誰かが何を調べようと何処を操作しようとしたか全部、順番に教えてくれる機能のオマケつきって所だ。外では携帯から離れる時はこの機能にしてる。誰がどんな情報盗もうとしてるかわからねぇからな」
「私が触った時は普通に操作できたけど…」
「だから、外ではっつってんだろうが。てめえに見られてヤバいもんなんざねぇから家じゃほったらかしてんだろが」
「それって…浮気はしてないって事?」
「てめえは浮気される程度の女か?」
「…そうは思いたくないけど…」
「だいたい俺が浮気してると思い当たることってなんだ?履歴だけじゃねんだろ?」
「…それは、その…ほら、あの…」
「うぜぇ!さっさと言いやがれ!」
「だって、妖一が知らない女の人と連絡とるようになってからこっちふっ、ふう、その…夫婦の営みって無いじゃない?!」
真っ赤な顔をして言葉を振り絞ったまもりに、蛭魔は一瞬あっけにとられた後、大爆笑した。
「何よ!何でそんな笑うのよ!?笑う事!?」
まもりは真っ赤な顔のまま怒りだしてしまった。
「あ~まぁな、アメリカに来て3年、てめえと結婚して3年。チームもようやく上昇気流に乗れたし、俺自身どうにかこうにかレギュラーの座を射止めた。まだまだ余裕綽々とは行かねぇが少しはゆとりが出来たから…」
「ゆとりが出来たからつい三年目の浮気!?」
「…てめえ、本当はいくつだ?!浮気なんざしてねぇ!そうじゃねぇ、あ~、ガキだ!」
「ガキ?」
「そろそろガキこさえても良いかと思ったんだよ!」
「!!」
真っ赤な顔のまままもりは口をパクパクと動かすが声が出ない。
「妊娠初期は安静にしとくに限るだろうが」
「妊娠?…あ、だから慰謝料に養育費が入ってたの?…あの…私、別に妊娠してないけど?」
「あん?」
「先日、予定通り来たもの…」
「……行くぞ!」
「何処に?」
「ジェニファーん所だ!」
「えぇ!?だ、だから誰よジェニファーって!?」
まもりは有無を言わせぬ強引さで車に放り込まれた。
何を聞いても黙りな蛭魔にため息をつくと、諦めてまもりも黙って外の景色を眺めるしかなかった。
蛭魔に連れて来られたのは総合病院だった。
まもり達の住んでいる近辺で一番大きくて、最新設備と優秀なドクターが揃っていると評判の病院だ。
蛭魔は受付を済ますとさっさと目的の科へと歩いて行ってしまったのでまもりは慌て追いかけた。
科に着くとすぐ、まもりはナースに連れて行かれ、体重、血圧、尿検査、エコー検査次々調べられ、ようやく待合室の蛭魔の隣に座れたと思ったのも束の間、すぐに蛭魔と共に診察室へと呼ばれた。
診察室の中にいたのはプラチナブロンドのゴージャスでフェロモンぷんぷんな女医。
「Hi!ヨーイチ。悪魔と評判のあなたも人の子だったのね!」
「ウルセー。とっとと検査結果を言いヤガレ糞女医!」
親しげな二人の会話について行けずに椅子にぽつんと座っていたまもりに女医は大輪の花が咲き誇るような笑顔で笑いかけた。
「初めまして、担当のジェニファーよ。ヨーイチにはもったいない位チャーミングで純真そうな子じゃない!悪魔にたぶらかされたの?なんて事でしょう!可哀想に!」
「オイ!」
「あぁ、ごめんなさい。そうそう、検査の結果から申しますと…妊娠しています。ねぇ?この結果ってハレルヤ?それともOh!mygod?」
「てめえしつけえぞ!」
「だって!ヨーイチがパパよ!?dad!何のジョークよ!似合わない~!オムツかえるの?ミルクあげるの?ねぇdada?ビデオ撮ってYouTubeに投稿するわ!アハハハハ!」
「てめえ~」
「あっ、あの!」
二人の会話にまもりが割って入る。
「で、でも生理が来てるんですけど…?」
まもりの言葉にジェニファーの顔が医師の顔へと戻る。
「出血はいつから、どのくらい?」
「一昨日、予定通りに始まったので妊娠は無いと思ったんですけど…ただ、ちょっといつもとは違う感じはしましたけど…」
「どんな風に?」
「その・・・量が少しでずっと始まる前の感じって言うか…」
「妊娠初期に出血することはたまに有ることで、その位なら問題ないわ。尿検査の結果から妊娠はしてるのは確実。ただ、エコーで胎児を確認は出来ていないのよ。エコー写真のここ。小さな陰が有るでしょ?そのすぐ下のここが子宮口なんだけど…おそらくこの陰はポリープだと思うんだけど、仮にこれが胎児だったとした場合、流産仕掛かってるってことになるの。今の段階では胎児かポリープかは判らない。今、胎児を確認できないのは妊娠してすぐで、まだ胎児が小さいからかもしれない。とにかく時間が必要。一週間後に再受診してもらえる?この陰が胎児でないなら一週間後にはちゃんと成長した胎児を確認できるはずよ?大丈夫、そんな顔しないで。なんたって悪魔の子ですもの一筋縄じゃいかないわよ!でも、この後の一週間は安静にしてね。良い?」
「…はい。」
まもりと共に退室しようとする蛭魔にジェニファーが声をかける。
「せいぜい頑張りなさいよ~Dad!Dudって呼ばれないようにね~!」
うぷぷと笑いを堪えているジェニファーに蛭魔は「糞!」と悪態を一つつき病院を後にした。
続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・えへ。
マジにとっちゃ嫌ですよ?
私はずっと産婦人科って私妊婦さんだけが行く病院だと思ってました。
そしたら友人に「産婦人科は 産科と婦人科!妊婦さんだけじゃないの!」と云われました★
そうだったんだ!と目からうろこでした。
だって、ドラマとかで高校生とかが産婦人科からでてきたらすぐに妊娠だってバレるじゃない?
産婦人科=妊娠でないなら もっと言い訳すりゃ良いじゃん!?
ドラマだからか?
まあ、そんな奴が書いた話なんで マジに違うよとかってツッコミはしないで下さいね?ね?
なけなしの知識総動員はしたんですけどね?
軽く読み流してくださいね~~~。

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