青春Refrain
泥門プリンセスホテルの大広間にて、泥門高校 年度卒業生の同窓会が開催されていた。
会場入り口付近で会話する男が二人。
「おっ!鈴木じゃないか!久しぶり!」
「えっ?本田?お前、太ったなぁ~!高校の時はあんな細かったのに 見る影が無いじゃないか!」
「そう言うお前だって顔がかなり上の方まで領土広げてるじゃないか」
「人が気にしてることをズバッと言うなよな。あっ、あれ豊田じゃね?くそ、あいつあんまりかわってねえな」
「あいつ高校時代結構モテてたよな。おっ、気付いた女共がたむろしだしたぞ。くそ~何でいくつになってもモテてんだよ」
「はっ、四十のおばちゃんにモテても嬉しかねえよ」
「まあな…って、俺らも四十だよ」
「歳とるハズだよなぁ」
「頭も薄くなれば、腹も出る。自然の摂理だ」
「女子は老けてる上に化粧してるから誰が誰かわからねえな…」
「おい、あれ。あそこのテーブルんとこに立ってる赤い服の女」
「あん?あぁ、あの派手なの?あれ誰だ?」
「アレがアノ 松田さんだってよ」
「えっ?!松田さん!?嘘だろう…見る影どころか見るも無惨じゃないか…」
「時の流れって残酷だよな…」
「俺、高校時代 彼女のこと好きだったのに…あんなになっちまってるなんて…ショックだぁ~!俺の美しい青春の思い出の1ページがぁ~…」
「気持ちはわかるぞ」
「あっ、そう言えば彼女は来てるのかな?」
「誰?」
「ほら、あの、我らがマドンナだった姉崎さん!」
「あぁ、姉崎さんかぁ。懐かしいなぁ。凄く綺麗な子だったよなぁ」
「憧れてる奴多かったよな」
「高嶺の花だったよなぁ。あの豊田もコクって振られたしな」
「彼女、今、どうなってんだろな」
「松田さんみたくなってたら俺は泣くぞ!泣いて会場飛び出すぞ!」
「でも、彼女、クォーターだったろ?外人って歳とると結構…」
「うわ!やめてくれよ。これ以上、俺の美しい青春の思い出を壊さないでくれ~!」
「彼女、来てるのかな?」
広い会場をざっと見渡すがそれらしい姿は見つけられない。
「どんな姿になってても彼女なら目立ちそうだよな」
「おっ、あいつ雪光じゃね?あいつもでこ広いなぁ」
「あいつは高校時代からだろ」
「あいつ、確か部活が一緒だったよなぁ?姉崎さん来てるのか知ってるかな?おーい!雪光!」
「あぁ、鈴木君、えーっと…」
「本田だよ」
「あぁ!本田君!すっかり貫禄が出てわからなかったよ。久しぶり。元気だった?」
「ものは言い様だな」
「ま、俺のこの姿見ればわかるだろ?元気だけがとりえだ」
「もう四十代だし 見た目だけでは健康は語れないよ。それに肥満はいろんなリスクを伴うから気をつけた方が良いよ?」
「あー、そう言えばお前、医者になったんだったな。まあ、今、耳の痛い話しは置いといてだ。お前、姉崎さん来るかどうか知ってるか?」
「姉崎さん?来るはずだけど、まだ来てないみたいだね」
「なあ、お前、今、彼女どんなになってるか知ってるか?」
「姉崎さん?知ってるよ。」
「俺ら高校卒業以来会ってないんだよ。彼女、今、どんな感じ?」
「高校卒業以来会ってないなら…そうだなぁ。あらゆる意味で驚くと思うよ?」
「驚く?それは良い意味でか?悪い意味でか?」
「多分、両方」
「はぁ?両方?」
「おい、雪光」
後ろから声をかけられ振り向くと、そこにはムサシが立っていた。
「あ、ムサシ君。先日はどうもお世話になりました。」
「その後、どうだ?」
「リフォームしたおかげで暮らしやすくなったって、母が大喜びしてて毎日電話かけてくるよ」
「そりゃあ良かった」
「栗田君や姉崎さんは一緒じゃないの?」
「あぁ、あの二人ならまだ受け付けしてる。」
「二人に会うの久しぶりだから楽しみだなぁ」
「と、仕事片付けて飛んで来たから腹減ってるんだが…」
「ビュッフェだからあそこで…あぁ、僕も行くよ。栗田君が来たら無くなっちゃうかもしれないものね」
「ああ」
「鈴木君、本田君、それじゃまた!」
雪光とムサシは連れだってフードコーナーへと去って行った。
「武蔵って高校の時と全くかわってないな…」
「高校の時がすでにオヤジだったからなぁ あのまま老けてたら今頃ジジイだ。あっ、あれ栗田じゃね?」
「あ、栗田だ。坊主になってる」
「そう言えばあいつの実家、寺だったな」
巨体の栗田が会場に入った後、その影に隠れていたまもりに気付いた同級生達から感嘆の声が上がった。
「あ…姉崎さんだ…」
「あ…相変わらず美しい…」
「周りの女共と同じ歳とは思えない…」
「三十代前半…いや、下手すりゃ二十代後半って言っても通るんじゃねぇ?」
「女優かよ」
「いや、女神だ。やっぱり彼女は女神だったんだ!」
「…でも、その女神も人妻か…」
「あ、本当だ…くそ~!左手に光る指輪がうらめしいじゃねえか。どんな奴なんだ女神と結婚した野郎は!羨まし過ぎる!」
「あぁ女神様…。人生の切なさを痛感するなぁ…」
「女神と言えば、泥門には悪魔もいたよな…」
「悪魔!極悪非道残虐無比の泥門の魔王か…」
「あぁ、あいつ。あいつも来るのかな?」
「来ないんじゃないか?こう言うのに参加するタイプとは思えないし」
「だな、せっかくの同窓会が台無しになっちまうよな」
「あいつ、今、どうなってんだろな?」
「大学卒業後にNFL入ったのには驚いたよなぁ」
「あぁ…でも、故障したとかで引退早かったよな」
「今頃、裏社会牛耳ってそうだよな」
「うわ!簡単に想像できちまう!」
「あいつって、高校の時からばりばりブリーチやってたじゃん?今頃、ザビエルになってたりしてな」
「あいつ、いっつもばっちり金髪だったもんなぁ。あんだけ髪傷めてたんだからハゲてても不思議じゃないな」
「俺なんて高校の時からブリーチもせずに大切にして来てこれだからな。高校時代の怨みも加算してハゲにでもなっててくれないとやってられんぜ」
「スポーツ選手って辞めたら急激に太るじゃん?デブってるのも有りだよな」
「あん?誰がハゲてるって?誰がデブってるって?」
突然、背後からかけられた声に背筋が氷つく。
その声は恐怖として二人の記憶の奥底に刻まれているものと一致する。
恐怖に固まった顔でぎこちなく背後を振り返ると、そこに立っていたのは高校時代と寸分違わぬ悪魔。
「!!」
二人とも恐怖と驚愕で固まってしまった。
そんな二人に興味を無くした悪魔はつまらなそうにさっさとその場を後にした。
去って行く悪魔の後ろ姿を見送りながら「…なんで高校時代のままなんだ?!全く歳取って無いじゃないか…」
「や…やっぱり悪魔だったんだ…」と呟いた。
悪魔に気が付くとその場にいた誰もが驚き道を開く。
その様はまるで『十戒』のモーゼが海を割ったが如し。
そのおかげで目的の人物を易々と発見できた。
「おい」
「えっ?あら!どうしてここに居るの?何かあったの!?」
「携帯」
「えっ?」
「忘れてっただろ」
「あ、それでわざわざ?」
「オヤジから連絡あったんだよ」
「えっ!なんて?!」
「予定変更になったから昼頃には帰るだと」
「そうなの!?」
まもりは受け取った携帯で慌て電話をかけた。
「よう、久しぶり。しばらく会わないうちにデカくなったな」
「はっ!糞ジジイ。そりゃこの歳で縮まねぇだろ」
「どんどん似てくるね!そっくりだよ」
「クローンだよね」
「糞デブ、糞ハゲ、ウルセーぞ!誰が好き好んで似るかよ!」
「えぇ?!」
談笑する四人の声を電話中のまもりの声が遮った。
「あ、切れちゃった」
「どうかしたのか?」
携帯をしまったまもりにムサシが声をかけた。
「それがね、今、空港からヘリでこっちに向かってるって…」
「空港?あいつどこに行ってたんだ?」
「一昨日から明日までの予定で中国。その後はインドへ行くはずだったんだけど…変更になったのかしら?」
「相変わらず世界中飛び回ってるんだな」
「ケッ、暗躍してるの間違いだろ」
「誰が暗躍してるって?」
悪魔の登場からこっち、身動ぎもせず、この一団の言動を見守っていた元同級生達の間にざわめきが起きる。
突如現れた一人の男。
ゆるく後ろに流された長めの黒髪。
引き締まった身体にまとったスーツは一目で高級だと判るセンスの良さ。
ワイシャツの第一ボタンははずされ、ネクタイもゆるめられているが、だらしなさは無く、むしろ仕事のできる男の色気が漂っている程だ。
異彩を放つ存在に誰もが目を奪われる。
「お帰りなさい」
「おう」
「ご無沙汰してます」
「おう、糞ハゲ。相変わらず光ってんな」
「お前も相変わらず飛び回ってんだな」
「まあな」
「久しぶりだねぇ~蛭魔ぁ!」
栗田が呼んだ男の名前に誰もが衝撃を受ける。
目の前のこのため息の出るような良い男が高校時代、悪魔と学校中から恐れられ、いみ嫌われたあの蛭魔の未来の姿?!
会場中が驚愕の嵐に包まれる。
鈴木と本田は雪光に近づくと小声で尋ねた。
「なぁ雪光。じゃあ、あの蛭魔そっくりの奴は蛭魔じゃないのか?」
「あはははは 蛭魔君のわけ無いじゃないか。彼は蛭魔君の息子だよ」
「蛭魔の息子!」
瞬時に会場中がどよめく。
ここまで似ているのだからなんだかの血の繋がりが有るのは疑いない事だが、アノ蛭魔と結婚、家族の文字がどうしてもイコールで繋がらない。
「蛭魔君 大学卒業と同時に結婚したんだよ」
「へぇ…早かったんだな」
「うん。結婚するって聞いた時は僕も驚いたけど、高校の時から付き合ってたんだから交際期間だけで6年近くだものね。早いって事はないなって思ったよ」
「高校時代から!?6年!?」
「もしかして蛭魔の嫁さんって泥門なのか!?」
「は?なに言ってるんだい」
「違うのか?」
「蛭魔君と高校時代から付き合ってたのは姉崎さんじゃないか」
暫しの沈黙の後、会場中がパニックに陥る。
「泥門の天使と悪魔が結婚…」
「高校時代から付き合ってた!?」
まさに阿鼻叫喚。
その後の同窓会は混乱の中、幕を閉じた。
明かりが灯り始めた街中を駅に向かって鈴木と本田はとぼとぼと歩いていた。
「せめて子供が姉崎さん似だったらまだ救いがあったのに…」
「何処をどう見ても生粋の悪魔だったよな…」
「天使の血が入っているとは思えない…」
「プラス×マイナスはマイナスになるって証明だな」
「…でも、姉崎さん綺麗だったな」
「…幸せそうだったよな」
「蛭魔もすっかり落ち着いてたな」
「悔しいけど格が違うって感じだったよな…」
「…。」
「…。」
「…俺達も頑張らなきゃな」
「おう!負けてられないよな!」
「景気付けに飲みに行くか」
「俺らの輝かしい未来への第一歩を祝おう!」
二人はさっきまでとは打って代わり、軽い足取りで活動を始めたばかりの夜の街へと消えて行った。
終わり
蛭姉友達の風龍凪さんが参加される「キッパラ」のサイトを覗いた時に浮かんだネタ★
結婚して子供までできてるんだから このお話は蛭×姉なのです!!
例え どんなに おっちゃん二人が出張っていようとも!!!
軽い感じに笑っていただければ幸いですv
未来の蛭魔さん。
金髪にするか黒髪にするか迷いましたが 今回は黒髪にしました♪
金髪だったら スグにバレそうだから★

PR