君の音 10
やりたい事…。
将来は保育士か小学校の先生になりたいと言う夢がある。
だから大学はその道に進める学部のある所を幾つかピックアップしている。
後はその中から選ぶだけなのに、そこからが進まない。
自分の事なのに自分がどうしたいのかわからない。
そう言えば、高校を泥門に決めたのも友達が一緒に行こうと誘ってくれたからだった事を思い出した。
アメフトのマネージャーだって体よく騙されてだし…。
「私って人が言ってくれるほど しっかり者じゃないのかも…。」
我が身を振り返り、少々自分が情けなくなる。
「てめえは蚤は見えても馬には気付かねえ奴だからな」
「そ、そこまでヒドくないわよ!」
「言い切れるか?」
「うっ…」
セナの事を見ていたハズなのにアイシールドの正体には気付かなかった事を考えると返答に詰まってしまう。
「てめえは騙されて利用されやすい女だって事だ」
「騙すのも利用するのも蛭魔君でしょ!」
「だが、てめえは運が良い。騙されて不幸になった事があるか?」
「…ないわ。ショックは受けたけど」
不幸になるどころか、かけがえのない大切な日々だったと心から誇れる。
あぁ、そうか…。
大学がどうのじゃなくて、決めてしまったら かけがえのない日々に終わりが来てしまう、だから嫌なんだ。
ぽとりと落ちて来た答えに気持ちが沈む。
「だからてめえはいつまでも騙されてろ」
「はぁ?」
いつの間にか曲を弾き終わった蛭魔がピアノの椅子に座ったまま、まもりと向かい合っていた。
「それってどう言う意味?」
「そのまんまだ。素直に騙されて大学でも従順に糞労働力として働きやがれ」
「大学、最京大にしろってこと?」
「他じゃ使えねえだろが」
「…」
「クリスマスボウルの次はライスボウル!まだまだ終わりじゃねえぞ」
「!」
まだまだ終わりじゃない…。
その言葉に胸を撃ち抜かれたような衝撃が走る。
「私の労働力はまだ必要?」
「おう。まだまだだ。こきつかってやるから覚悟しやがれ!」
そんな事言われてホイホイ同じ大学に行くような物好きはそうそう居ないと思いつつも、まだ必要とされていて、同じ大学に誘われている、それだけで嬉しく思う自分が確かにいる。
最京大ってどんな学部があったっけ?
頭の片隅でふと考えたが、なんとかなるわよねと、一気に前向き思考になった自分がおかしい。
「そうね。栗田君が居なくなったら蛭魔君、寂しいものね。しょうがないから一緒の大学行ってあげるわ」
ニコリと笑うまもりに蛭魔は苦虫を噛み潰したような顔になったが、やがて苦笑をひとつこぼして再びピアノに向かった。
流れてきたのは軽快なジャズの調べ。
「この曲…。」
鍵盤をはじく指先がとても楽しげに感じる。
「ねえ、この曲の歌詞知ってる?」
「疲れはててようやく眠った所を叩き起こされて無理矢理歌詞書かされて、寝惚けながら五分程でテキトーに書いた歌詞が大ヒットしたってやつだろ」
「そんなうんちく聞いた訳じゃないわよ…」
蛭魔のひねくれた返答に呆れつつも、歌詞を知っていることを確信してなんだかこそばゆい気持ちになる。
この曲は私へ向けて弾いてくれていると自然に思えた。
彼からの音を心に刻みつけよう。
まもりは身体中で音を感じた。
曲を弾き終わると、蛭魔はおもむろに立ち上がりピアノを閉じた。
「お疲れ様。 Tea For Two 」
「あん?」
「今、弾いてくれた曲の通り、部室でお茶しましょ?」
「おう、疲れたから濃いブラックな」
「疲れた時は甘い物じゃない?今日のお礼に今度、シュガーケーキ焼いてきましょうか?」
「何がお礼だ。嫌がらせでしかねえじゃねえか」
うげぇと心底嫌そうな顔をする蛭魔に思わず笑ってしまった。
音楽室を後に二人で廊下を並んで歩く。
ふと気になったことを蛭魔に質問してみた。
「ねえ、あの依子ちゃんの手のひらの数字って何だったの?」
「NO27ってのは ロノウェって音と伝達を司る悪魔のナンバーだ」
「悪魔のナンバー?」
「アメリカでは若くしてミュージシャンとして成功した何人かが ロノウェと契約をかわしてるって言われてる。なんでかわかるか?」
「考えられないくらい急激にメジャーになったから?」
「ブー!契約したと言われtる奴らは全員、27歳で死んでるからだ。ロノウェと契約するとミュージシャンとして成功はするがロノウェの数字の27で死ぬと言われてんだよ」
「えぇ!?そ、そんな危険な数字 依子ちゃんに書いたら駄目じゃない!!」
慌てて走り出そうとするまもりの腕を昼間は苦も無く捉える。
「俺はロノウェじゃねえし、アレは単なるエントリーナンバーだ。死にゃしねえよ」
「・・・本当に?」
「スポーツ選手とかでもいるだろ?帽子やシューズに言葉かく奴。アレは精神を落ちつける効果があるんだよ。それと同じだ。要は気の持ちよう1つだ」
「そうなんだ」
ほっとすると同時に蛭魔の手がまだ自分の手をつかんだままでいる事に気づいて少し慌てる。
「あ、あの蛭魔君・・・?」
「あん?」
「あの・・・手・・・」
「手?放すか?」
「・・・・このままで・・・・」
「おし、行くぞ。」
「うん」
掴まれているだけだった手を動かし、指を絡める。
ふと まもりは曲のラストフレーズが聞こえた気がして音楽室を振り返った。
静まり返った廊下に響くのは同じリズムを刻む二人の足音だけ。
不思議そうにまもりを見る蛭魔に微笑み、まもりは新たな一歩を踏み出した。
END
終わりです。
これで終わりです。
これで終わりかい!?と怒られそうで怖いですけど 終わりです。
終わりなんですぅ~~。
いかがでしたでしょうか?
散々引っ張っといて コレかい!?と怒られそうでドキドキです。
まあ、私が書けるのは この程度までなんですヨ。
多めに見てやって下さいねv
なにとぞ~~!!
このお話、単に蛭魔にピアノを弾かせたい!ラストは蛭魔が「Tea For Two」を弾いて二人で部室でお茶して終わりってだけの簡単なコンセプトのお話だったんですが、どこでこんなダラダラする話になっちゃったんだか・・・。
もっと濃縮還元なお話が書けるようになりたいっす。
炭酸の抜けたコーラのような話しか書けない。
いや、炭酸が抜けたコーラは不味いけど、糞甘いから それですらないな・・・。
御存知かもしれませんが「Tea For Two」は熱烈なプロポーズの曲なのですよv
色々、言い訳したいですが・・・・言うまい。
も~、次回こそ!!
精進します!!
ちなみにラストフレーズは「oh, can't you see how happy we will be?」です♪

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