青春REAL 5
後半はリードしている事から余裕を見せた桜田チームの雰囲気そのままにスローペースの試合運びとなった。
時間を目一杯使いボールを回す。
大人が子供をからかうようなパス回しに観客からも笑いが起こる。
「クソー!こんな笑われるなんてムカつきMAX!人が真剣にしてるってのによ!」
観客から笑いが起こる度にモン太の怒りのボルテージは上がって行く。
「ムッキー!この観客黙らすような事、やってくんねぇかなぁ」
「でも、あっちのチームの余裕程 点差は開かないね。なんだか蛭魔さん、まだ何か隠してるって言うか…わざと時間潰させてるような感じが…」
「そうか?それだったら良んだけどなぁ…」
「あ、まもり姉ちゃんだ」
「えっ!まもりさん?!どこどこ?!」
「反対側の応援席の真ん中」
セナが指さした場所には、他の球技の応援を終えてやって来たのだろうか、身振りから推測するに、後ろで観戦するから良いと断っているようだが賭けの事を知っているらしいクラスメイト達に無理やり最前列の席に座らされ少し困った表情を浮かべたまもりがいた。
「まもり姉ちゃん、噂聞いてるのかなぁ?」
「うーん、どうだろう?まもりさんの耳には入れにくいかもなぁ…」
「賭けのこと知ったらまもり姉ちゃん怒るんじゃないかなぁ…」
「うっ…と、とにかく!勝ちゃあ問題なしだぜ!勝つのみ!」
「うん。そうだね。蛭魔さんに勝ってもらうしかないよね!蛭魔さん頑張れー!」
セナとモン太は声の限り蛭魔を応援した。
ピ―――!
「アンスポーツマンライク・ファウル!バスケットカウント1スロー!」
ファウルを知らせる審判の笛が鳴り、宮益がファウルしたことを認め手を挙げた。
蛭魔がシュート体制に入った後での宮益のディフェンスがファウルとみなされたのだ。
「チッ!蛭魔の奴、あんな細身のクセに押され負けしないなんてな!」
宮益が忌々しげに舌打ちをする。
「ドンマイ!蛭魔の奴 ボディバランスが良んだよな。しかも審判へのアピールが巧いからちょっとの事でも笛吹かれんだ。イラつくよな」
「おい!宮益!福田も!お前ら気を付けろよ!宮益はファウル4つ、福田は3つだぞ!ファウル5つで退場だぞ?!そうなりたくなきゃ考えて動けよ!まだ時間は13分も有るんだからな!」
「えっ!俺、ファウル3つ?!ヤベェなぁ」
「まあ、蛭魔がフリースロー決めたとしても点差はまだ15点有るし、安全圏だろ?大丈夫だって。そんなカリカリすんなよ桜田」
「そんな平和ボケの発言する奴に足元掬われて負けたくねんだよ!」
「なんだと?!平和ボケってなんだよ!」
思うように点差を開くことが出来ない苛立ちから桜田は勢いに任せて嫌味を口にした。
そして、それに反応した宮益が桜田に掴みかかろうとする。
なんとか福田とチームメイトの三人がかりで宥めたが険悪な空気は拭いきれない。
蛭魔がきっちりフリースローを決め、点差は15点。
桜田チームのボールで試合は再開したが、桜田と宮益の険悪な空気はメンバーの動きを鈍らせる。
そしてそんなチャンスを蛭魔が見逃す筈もなく、すかさずスティールして難なくスリーポインを決めた。
スティールを決められた桜田チームは苛立ちからプレーが荒くなり、蛭魔チームの他のメンバーにもパスボールをカットされる。
弾かれたボールはサイドアウトすると高をくくった福田は追いかけなかったが、蛭魔チームの相田は俊敏さを活かし、ボールがサイドアウトする前にボールをはたき、コートの中の宮益の足にぶつけた。
宮益の足にぶつかったボールはその後コートを割り、審判が蛭魔チームのボールになったことをコールする。
蛭魔がサイドラインでボールを手にした瞬間、蛭魔チームで一番背の高い高砂がコートを駆け上がり、ゴールポスト脇で手を思いっきり伸ばして勢い良くジャンプした。
その手をめがけて蛭魔はボールを放つ。
これ以上はないタイミングで蛭魔の放ったボールは高砂の手の平に当たり、そのまま綺麗にゴールポストをくぐり抜けた。
再び蛭魔チームに3点が加算され、点差は9点となる。
「福田!宮益!何やってんだよ!ルーズボールきっちり押さえんのは基本だろ!」
「うるせぇ!ちょっと失敗しただけだろ!」
「何がちょっとだよ!きっちりスリー決められてんじゃねぇか!」
「てめえがしっかりボール投げる蛭魔をマークしとかねえからだろ?!あんな離れて守ってりゃロングパス余裕で投げれるっての!」
「自分のミスは棚に上げて俺のせいだって言うのかよ?!」
「てめえのせいでモチベーション下がりまくりなんだよ!」
いさかいにより試合は一時中断となっり、桜田チームは慌てタイムアウトを取った。
「さっきのロングパス凄かったね!ビューンと来て手に当たってぽとって入るんだもの!」
「ああいうシュートはアリウープって言うのよ」
興奮している友人にまもりはにこやかに教えた。
「でも、なんだか蛭魔なら高砂君の手に当てなくても直接ゴールできそうじゃない!?」
「投げたボールがそのままポストに入った場合、バイオレーションって反則になっちゃうのよ」
「そうなんだ。でも蛭魔やるよねぇ。バスケも巧いんじゃん。蛭魔頑張れー!」
無邪気に応援する友人に微笑むとまもりも視線をコートへと向けた。
続く

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