君の音 3
それから音楽祭までの間、まもりと依子は「打倒!悪魔!!」を合言葉にひたすら練習に打ち込んだ。
部活にはたまに顔を出す程度で蛭魔と顔を合わせることも少なかった。
練習の合間の休憩の時、遠くのグランドを眺めながら依子と二人、蛭魔についてあれこれとりとめもなくワイワイ話すのがまもりは楽しかった。
まもりも依子も今まで好きな男の子について友達と話すなんてしたことがなかったから秘密の共有は二人を大いに盛り上げた。
楽しい時間は瞬く間にすぎ、ついに音楽祭当日がやって来た。
まもり達の出番はプログラムNo27、最後のオオトリ。
卒業後、バイオリン留学する依子への学校の期待が伺える。
「まもりちゃんどうしよう!私、今まで出たどのコンクールよりも緊張してる~!蛭魔君は聞いてくれるかな~?」
依子は朝からずっと落ち着きなく立ったり座ったり、意味もなく教室の中をうろうろしている。
その落ち着きの無さは見ているこっちが疲れそうな程だ。
「まだ始まったばかりなんだから落ち着いて。今からそんなに緊張してたら本番までに疲れはてちゃうわよ?それに蛭魔君がちゃんと私達の演奏聞くように首に縄着けてでも引っ張って来てってムサシ君と栗田君に頼んでおいたから大丈夫よ」
その言葉を聞き依子はようやく椅子に座った。
「まもりちゃん本当にありがとうね」
しみじみと呟く依子に「お礼はまだ早いわ。打倒!悪魔!!を叶えてからよ」とまもりは笑った。
せっかくだから他の人の演奏を聞いてみようと言うことになり、まもりと依子は連れだって控え室を出た。
体育館は勿論、中庭、グランド、屋上、果ては階段の踊り場でまでと、学校中の至るところでストリートミュージシャンよろしく誰かが演奏をしていて、その周りを取り囲む生徒の輪がこれまたあちらこちらに出来ていた。
階段を登る途中、踊り場にできた人だかりにまもりは眉をひそめた。
階段を登ろうにも人垣のせいで通路が極端に狭くなっている。
この階段は諦めて別の階段から登った方が良いかもと思い踵を返そうとした瞬間、階段の上の通路をいつも通りガムを膨らませながら歩く蛭魔が目に入った。
ここ暫くまもりは蛭魔に会っていなかった。
今日、彼を見かけたのも初めて。
ちゃんと私達の演奏を聞いてくれるよう直接お願いしなくっちゃ!
その思いがまもりを突き動かした。
人垣に押されつつも蛭魔の名を呼びながらどうにかこうにか階段を登って行く。
いつもなら蛭魔と呼び掛ける名前を聞いただけで蜘蛛の子を散らすように居なくなる生徒達だが、大音量の騒音とも言える音に紛れて聞こえてはいない。
当然段階上の蛭魔にも。
なんとか声をかけなくちゃ 揉まれながらも最後の段を登り再び蛭魔の名前を呼んだ瞬間、その声は蛭魔だけでなく演奏を聞いていた人垣の生徒にも聞こえた。
人垣の中の一人が驚き、よろけ、そして、ようやく蛭魔と視線を合わすことができ、笑みを浮かべたまもりにぶつかった。
まもりはバランスを崩し、皆の目が注がれる中、スローモーションのように階段を落ちて行った。
続く
短くてスミマセン。
しかもこんな所で・・・・。
色々迷いの多いお話です。
こんなお話・・・・楽しんでいただけてるでしょうか?
か~なり自己満足かな・・・。
逃げちゃダメだ!逃げちゃダメだ!と自分を叱咤しつつ・・・やっぱ迷う★

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