ティースプーンに角砂糖一個の愛を乗せて
王城戦を明後日に控え、今日も泥門の練習は気合いがみなぎっていた。
そんな中、部活終了直前になってまもりは備品の買い出しを蛭魔に命令されてキミドリスポーツへと来ていた。
「明日でも良かったと思うんだけどな…」
レジの後ろの壁に書けてある時計を見ると もうそろそろ部活が終わる時間だ。
まもりは支払いを済ませると急いで部室へと引き返した。
パン!
パパパン!
パパン!
部室のドアを開けた瞬間、いくつものはじける音が響き渡った。
咄嗟に蛭魔が発砲したと思ったまもりは「蛭魔君!!」と青筋立てて叫んでしまったが、実はクラッカーだったと気付き怒りの表情は驚きの表情へと変わった。
「まもりさん!おめでとうございます!!」
「まも姐おめでとうー!やー!」
「姉崎さんおめでとう」
みんなが口々にお祝いの言葉をかけてくれた上に、ルーレット台の上にはウェディングケーキが小さくなったような三段重ねのデコレーションケーキがどんと真ん中に置かれ、その回りには雁屋のシュークリームを筆頭に、マモノール、一光堂、花崎、ふじに東洋食と、泥門高校周辺の洋菓子店の色とりどりの数々のスイーツが所狭しと並べられていた。
「これって…」
「今日、まも姐のお誕生日でしょ?」
「王城戦前だからたいした事は出来ないけど、いつもお世話になってるささやかなお礼って事でね」
「ありがとう、みんな」
「じゃあみんなでHappyBirthday歌うから、歌が終わったら願い事してからロウソクを吹き消してね!」
そう言うと悪魔1人を覗いたメンバーの合唱が始まった。
メンバーの合唱に手拍子しながらまもりはこちらに背を向けている悪魔にチラリと目を向けた。
悪魔は行儀悪く隣の椅子に伸ばした足を乗せている。
その姿はこちらの事などまるで我関せずと言った感じだが、微かに足先でリズムを取っているのに気づき、思わず微笑んでしまう。
みんなの合唱が終わるとまもりは「絶対クリスマスボウル優勝!」とハッキリした声で宣言してロウソクの火を一息に吹き消した。
その後はみんなで心行くまでケーキを堪能した。
やはり、ただ1人悪魔を除いては。
全員で片付けると言うのを「部活で疲れてるんだからみんなは早く帰って休んで」と、まもりは断り先にみんなを帰した。
今、部室には片付け中のまもりと、相変わらずパソコンでデータ分析している蛭魔の二人だけだ。
「蛭魔君、今日はありがとうね」
突然のまもりの言葉に蛭魔は訝しげな視線を向ける。
「あん?俺は何もしてねえぞ?それとも何か?何もしなかった事への遠回しな嫌味デスカ?」
「違います!だって、蛭魔君が許可してくれなきゃ部室でお誕生日会なんて出来なかったでしょ?それに歌の時も…」
その時の蛭魔を思い出してまもりは思わずクスリと笑ってしまった。
「ケッ。どうせ駄目だっつったってアイツらならすんだろ」
「そんな事ないわよ。蛭魔君が本気で駄目だって言えばきっとみんなやらなかったわ」
「ケッ、どうだか」「もう、素直じゃないんだからぁ」
口ではそう言いながらもまもりはご機嫌なようで、微かに鼻歌を口ずさみながら片付けを再開した。
「ご機嫌デスネェ」
「誕生日って特別な日だからそれだけで嬉しくなるじゃない?その上にみんなにお祝いなんてしてもらったら、もう、たまらなく嬉しくなるじゃない」
「ババアになんのがそんなに嬉しいか」
「もう!本当に可愛くない!」
「可愛くてたまるか」
「本当にィ~。蛭魔君には少しは素直に祝ってやろうって気が無い?」
「祝って欲しいか?」
「……後が怖いからやっぱり良いです」
「ほほぉ。糞マネはそんなに祝って欲しいんデスカァ」
「何、その凶悪に楽しそうな顔。怖いから結構です!」
「まあまあ遠慮するな」
「えっ?ちょっと何!?」
おもむろに立ち上がった蛭魔は掃除中のまもりを強引に椅子に座らせると、自分はさっさと部室の奥へと入って行った。
「何なの?」
残されたまもりは訳がわからず、大人しく椅子に座って蛭魔が帰って来るのを待つしかなかった。
パチッ
「何!?」
突然、部室の照明が落ちた。
一体、何事が起きるのかわからないまもりは身構えたが、背後にいきなり蛭魔の気配を感じてまもりは少々飛び上がってしまった。
「蛭魔君!?驚かさないでよ~」
「おら」
「えっ?何?」
まもりの前に置かれたのはいつものマグカップではなく、ソーサー付きの来客用のコーヒーカップで、何故かスプーンがカップに渡してあって、そのスプーンの上には角砂糖が一個乗せてある。
立ち昇る香りから、カップの中身はコーヒーだとわかる。
が、一体、蛭魔がどう言うつもりなのかはわからない。
すると蛭魔は瓶を取り出し、角砂糖の乗ったスプーンになにやら液体を注いだ。
そしてそのスプーンに今度は火のついたマッチを近づける。
そのとたんスプーンの中の角砂糖が青い炎に包まれた。
小さな青い炎の揺らめきはファンタジックで、まもりはしばし炎に見とれていたが、まだ火がついているスプーンを蛭魔が静かにカップの中に沈めてしまった。
「ほぅ。綺麗ね。ねぇ、何で燃えたの?」
照明がつき、部室は何事もなかったかのように明るくなった。
「ブランデーに火がついて燃えんだ。カフェ・ロワイヤルってカクテルの一種だ。てめえの好きそうな演出だろ?」
「お酒が何で部室にあるかは置いといて…。素敵なお祝いをありがとう」
「どういたしまして」
まもりは静かにスプーンでまぜると、ゆっくりカップに口をつけた。
いつもは入れるミルクも今日は入れずにのむ。
豊潤な苦味の中に微かな甘味を感じる。
クスクス笑いだしたまもりに蛭魔は眉を寄せる。
「ついに頭がわいたか?」
「違います!いやね、なんだかこのカフェ・ロワイヤルって蛭魔君みたいって思ったらおかしくって」
「やっぱ頭、わいてんじゃねえか」
「だからわいて無いってば」
「どーだか」
蛭魔も自分のコーヒーを口元に運んだ。
「ねぇ、蛭魔君をカフェ・ロワイヤルだとすると、私はどんな飲み物になると思う?」
「はぁ?俺はカフェ・ロワイヤルになんざならねえ」
「例えばよ、例えば。ねぇ、何だと思う?蛭魔君、カクテルとか詳しいじゃない」
「…RUSTY NAIL」
「ラスティ・ネール?…錆びた釘?」
「他にも古めかしいって意味もあんぞ。一つババアになったてめえにぴったりだろう」
「もう、そればっかり。蛭魔君に期待した私が馬鹿でした」
「なんなら作り方も教えてやろうか?」
「結構です」
「重要なのはドランブイだ」
「はいはい、ドランブイね」
これで会話は終わりとばかりに残りのコーヒーを飲み干すと、まもりは再び後片付けを再開した。
「おう。重要なのはドランブイだ」
それだけ言って蛭魔もコーヒーを一気に飲み干した。
「ラスティ・ネイル…ドランブイ…」
何か心の琴線に触れる言葉。
夕闇迫る帰り道、まもりは密かにラスティ・ネイルとドランブイについて調べてみようと密かに企んだ。
END
誕生日のお話を考えた時、ちょうどカクテルのお話を書きたいと思いまして・・・
無理やりカクテルのお話を組み込んじゃいました★
ラスティ・ネールと云う英語の名前は『錆びたくぎ』や『古めかしい』と云う意味があり、ウイスキーリキュールの中でも最も歴史があって、有名なドラブインを使う甘口なカクテルですv
『ドラブイン』はゲール語で『心を満たす飲み物』って意味ですv
すっごく遠まわしに蛭魔さん告白っちゅ~事で★
わかりにくいっすね・・・。
スコットランドのハイランド・モルトウイスキーと、ヒースの花のエキスや蜂蜜でつくられるアルコール度数40%のリキュールです。
『ラスティ・ネール』の作り方
ウイスキー 40ml
ドランブイ 20ml
グラスに氷を入れ、材料を注ぎステアする。
『カフェ・ロワイヤル』の作り方
ブランデー 1tsp
角砂糖 1個
ホットコーヒー 適量
コーヒーカップ
カフェ・ロワイヤル用ティースプーン
カップにコーヒーを注ぎ、カップにスプーンを渡し、角砂糖を乗せ、上からブランデーを注ぐ。
火をつけ、炎がたったらスプーンをカップに沈め静かに混ぜる。
部室で簡単に作れるカクテル・・・と考えた時、1巻で栗田が山盛りの角砂糖を使ってたのを思い出し、このカフェ・ロワイヤルにしましたv
「蛭魔君!!なんで部室にブランデーなんてお酒があるの!!?」
「ウルセー。ブランデーくらい糞甘え菓子にだって入ってんだろうが」
・・・・って会話も考えましたが没りました★
喧嘩が長くなっちゃうから★
とにもかくにも まもりさん おめでとー!
明日は、『フジワカバ』の風龍凪様に頂いたまもりお誕生日小説をUPさせて頂きますねvv

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