歪みと愛
「まもり姉ちゃんが自分へむけられた愛情に気付いた時、まもり姉ちゃんはどうなるだろうね…」
「どうしたの、セナ?」
「うん…ちょっとね」
一瞬の素朴な疑問
しかしそれは一瞬で消える事はなく、不安の色を色濃く残した
あの気丈で、心優しい彼女が…もし、自分の中にある確かな愛情を知ったらどうなるだろうか
その時は戸惑い、同時に嬉しさに満ち溢れるだろう
しかし、次の瞬間襲ってくるのは恐怖と嫌悪
他人を排除し、愛するその男を独占したいという至極まっとうな感情を受け入れられるだろうか
時間がかかるだけならいい
絶望し、戸惑い、最後に心を閉ざし、愛情に目を向けられなくなったらおしまいだ
誰の愛も受け入れられずに、一人でさびしく生きるかもしれない
もしくは、受け入れているふりをし、自分を偽り、傷つけ生きるのかもしれない
「セナ?大丈夫??顔色が悪いけど…」
「ぼくは大丈夫だよ、鈴音」
僕は…ね…
蛭魔さんはどうするのだろうか
どうするつもりなのだろうか
彼女との関係をはっきりさせるだろうか
それとも一生曖昧なままで…?
そんな事をする人物であるはずがないだろうが
はっきりさせる時が来る
「ごめん、鈴音」
「…うん。いいよ」
「ほんとにごめん」
「許す代わりに、今度ケーキバイキングに連れて行ってね」
「うん…ありがとう」
僕だって彼女といつかは関係をはっきりする時が来るかもしれない
いつまでも彼氏彼女で楽しくいるわけにはいかないのだから
しかし今は…
今まで僕を大切にしてくれた彼女を…
僕がまもってあげなければならない
ポケットから携帯を出し、コールした先は蛭魔妖一
〝あぁ?なんだ、糞チビ〟
「蛭魔さん、ちょっと話があるんですけど」
〝…デビルバッツの部室〟
「ありがとうございます」
駆け抜ける時の風が冷たい
背筋がぞくぞくする
******
懐かしい部室
あのときの空気さえ蘇るよう
感傷に浸っている時ではない
目の前に腰かける元キャプテンは鋭い視線を向ける
背筋が凍る
なんだ
これは
「なんで俺を呼びだしたのか言え」
「それは…」
殺気…?
まさか
それではこれは何だ
「早く言え、俺も暇じゃねえんだ」
「蛭魔さんは…」
「?」
「もし…まもり姉ちゃんが自分へむけられた愛情に気付いた時、まもり姉ちゃんはどうなるとおもいますか」
その問いは賭け
語るのか、この男は
それとも”降り”るのか
……賭けろ
「…それをてめえは聞いてどうする」
「どうもしません」
「そうか…なら、今少しだけ賢いてめえに教えてやろう」
乗った
この賭けにこの男は乗った
「気付いた相手が俺である事を願うだけだ」
意外
そして確信
もしくは絶望
彼の目は死んでいる
彼は…わかっている
すべてをわかっている
そして否定した
彼は気付いてしまった
自分もまた愛情に気付いてしまった事に
それと同時に、向けた相手が
彼女である事に
そして彼は待ちもせず、受け入れもせず
否定し、壊した
なんという事だ
なんて悲しい結末か
彼らは一生愛を理解せず生きるのか
「糞チビ、勘違いするな」
「?」
「俺はあきらめたわけでも、死んだわけでもない」
「…よく意味が」
「仮死状態潜伏活動って知ってるか」
「…いいえ」
「心を仮死状態にし、いたるところに潜伏し、獲物を狙うために動き…最後に喰らいつく」
獲物……
あぁ…
彼はそういう男だ
「まもり姉ちゃんは獲物ですか」
「当たり前だ…それも特上のな」
ならば僕はこれを止めはしない、出来ない
彼らの歪んでいる愛情
それは汚く、いびつで…しかし時に繊細で、もろく崩れやすい
見守ろう
僕らはそれしかできない
「必ず仕留めてくださいね」
「ケケケ…てめえは忘れっぽいな」
「そうかもしれませんね」
「俺は狙った獲物を逃がしたことなんてねえんだよ」
最凶の愛を持って
最愛の獲物を
彼は…
END
蛭魔VSせな
獲物なまもりさん。
じゅるるるるる~~。
神戸牛にだってまけませんよっ!!
風龍凪さま
素敵小説を有難うございました~~~!!!

PR