噂の二人 (後)
あれから数週間―――。
数日は落ち込んでいた鈴音も今は持ち前の明るさですっかり元気を取り戻していた。
「YA―HA―――!!」
今日、泥門にやって来た鈴音はなんだかいつも以上に元気に見える。
何があったのかな?
…なんか嫌な予感がする。
とってもご機嫌な鈴音は部活の間中、何かしゃべりたくてウズウズしている様子だったけど、これと言って話しかけて来ることはなかった。
「セナ!ドーナツ食べに行こうよ!今日は私が奢るから!」
部活が終わったと同時に満面の笑みを浮かべて誘って来た鈴音からは"逃さないわよ"って雰囲気がありありで…
「うん。良いよ」
少し逃げ腰になりながらもそう返すしかなかった。
ご機嫌でお気に入りのドーナツを頬張る鈴音はリスの様で可愛いなぁと素直に思える。
だけど、この後、鈴音の口からどんな言葉が飛び出すのか考えるとドーナツがやけにパサついて喉を通らない気がして僕はひたすらコーヒーをチビチビ飲んだ。
一つ目のドーナツを食べ終えた鈴音は少し落ち着いた様子でミルクティを飲みながら本題を切り出した。
「昨日ね、久しぶりにまも姐に電話したの」
「へ、へぇ。電話したんだ。まも姉ちゃん元気だった?」
「うん。練習試合とかが続くから息つく暇も無いって笑ってたよ」
「そうなんだ…ははは」
「それでねそれでね!」
鈴音が目を輝かせて乗り出して来る。
「聞いてよセナ!」
「う、うん。聞いてるよ」
「まも姐、付き合てる人がいるって言ったじゃない?」
「うん。聞いた」
「まも姐ね、その人と別れたんだって!YA――HA―――!」
「鈴音、しー!声大きいよ」
「あ、ゴメン」
自分のテンションの高さに気付いた鈴音はエヘヘと笑いながらまもりとの電話の内容を話し始めた。
「彼氏?やだぁ鈴音ちゃん。別に付き合ってるって訳じゃなかったのよ?誘われて何度か一緒に出かけたけど。それだけよ?」
「そうなの?」
「出かけるって言っても部の買い出し兼ねてたりだったし、出かけてる間もしょっちゅう蛭魔君から電話かかってきたりかけたりしてたからあまり二人っきりって雰囲気じゃなかったし、お弁当作りましょうか?って言ったら『大変だろうからいいよ』って断られたし」
「えー!まも姐の手料理断ったの?!」
「うん。蛭魔君のお弁当も作ってるついでだから全然大変じゃないって言ったんだけどね」
「…あ、そう言ったんだ…」
「そのうちあまり会う事がなくなってね、先日バッタリ駅前の商店街で会ったんだけど可愛い彼女と一緒でね、最近付き合い始めたんだって幸せそうに笑ってたわ。だから私とは別に付き合いたいとかじゃなかったんだと思うのよ。気楽に出かけれる友人って感じだったんじゃないかな」
まもりの声には全く刺は感じられない。
心の底からそう思っているのが伝わってくる。
鈴音は名前も知らぬ、まもりに片思いしていた誰かさんに少し同情した。
「…って、わけだったの!」
「はははははは…」
鈴音の話しを聞いて、僕は無気力に笑うことしかできなかった。
まもり姉ちゃん…相変わらずだなぁ…。
確かにまもり姉ちゃんはもてる。
もてるけど当のまもり姉ちゃんはその事に気付いてない。
自分に好意を寄せている人に対して親切な人だとか優しい人だとか、その程度にしか思っていない。
超のつく鈍さだ。
きっと、まもり姉ちゃんは人に親切にするのが当たり前だから、人が自分に対して色々やってくれる事の裏に下心があるなんて思い付きもしないんだろうな…。
「何のかんの言ってもやっぱりまも姐には妖一兄だよね!まも姐が気付いてないだけでまも姐の生活に妖一兄の存在ってもう欠かせなくなってると思うんだよね!」
「ははははは…」
目をキラキラさせて盛り上がってる鈴音に、やはり僕はひきつった笑顔を返すしかできなかった。
まもり姉ちゃんが自分へむけられた愛情に気付いた時、まもり姉ちゃんはどうなるだろう?
相手は鈴音の希望通り蛭魔さんになるかどうかはわからないけど、まもり姉ちゃんも鈴音も、みんな笑顔でいられたら良いな。
そう考えて、僕はようやく自然に笑顔を浮かべれた。
END
長々と引っ張ってしまって・・・・。
この眠さはなんなのでしょうか?
春の魔力!?
ようやく書きあげたので 今は2本、同時進行で書いてます。
どちらか 13000記念としてUPしようと思ってます。
どっちが早く書きあげれるか?
……早く書きあげなきゃね★

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