大学生活のリズムが最近体になじみ始め、最京大アメフト部では居酒屋を貸し切り、糞つまんねぇ新歓コンパが…。
席は基本、自由なのだが大まかに学年ごとに大体バラけて座っており、数人いる女子マネージャーは華として、四回生の多く座るテーブルに座らされていた。
その事が俺の癇に障る。
何故年上だからといって威張る事が出来るのだ。
お前はあいつとつりあわねえ
「いやぁ~、それにしても残念だなぁ。姉崎さんが彼氏持ちなんてなぁ」
四回生の誰かがしみじみと呟いた言葉にすかさず誰かが相づちをうつ。
名前なぞどうでもいいし、覚えるつもりもねぇ
まぁ、覚えたくなくても覚えちまうものは仕方がねぇがな…
「そうそう。しかもその彼氏ってのがあれだもんなぁ…」
男どもの会話はいつもこうだ。
さらに近くで飲んでいた野郎共が次々と加わってくる。
なんだこの気持ち悪い連中は
「ウンウン。まさに優等生が不良に惚れるって言う漫画みたいなパターンだよなぁ」
「だよなぁ~。高校ではキャプテンとマネージャーで…」
「大学は二人揃って親元離れて関西へ…」
「くっそ~!羨まし過ぎるっ!」
「世の中不公平だー!」
「やってらんねぇよなぁ、おい!」
「まったくだ!」
そう言いながら大ジョッキをその場にいた全員がやけのように次々煽っていく。
そうだ
あいつはおれのだ。
誰にも手出しはさせねえからな
「あ、あのぉ…」
まもりはたまらず声をかけるが誰一人まもりの話など聞いておらず、銘々好き勝手な事を喋っている。
あいつ…
余計な事をしゃべりだしそうだな…
…まだ俺の苦労は報われないのか
「しかし、あれだよなぁ。なんで付き合うことになったの?」
「それ!俺も聞きてぇ!」
「アイツが告るとこなんて想像できねぇもんなぁ」
「あぁ。でも、ああ見えて二人っきりだと実は…とかぁ?!」
「甘えん坊さんってかぁ?!」
「うっわ!キモ!」
どんどんエスカレートして行くテンションにまもりはなんとしても黙っているわけにはいかなくなる。
つーか甘えん坊だと?!
オイ、だれに向かってその口叩いてんだ
一気に酔いを覚まさせてやろうか!
するとこの空気を破りたかったのか、まもりがテーブルをたたく
バンッ!
「違いますっ!!」
両手で思い切りテーブルを叩き声を張り上げると効果は絶大で、今までの喧騒が嘘のように店中が静まりかえった。
コホンと一つ咳をして、まもりは静かに、しかしきっぱりと言葉を口にする。
「私と蛭魔君は付き合っていません!私は誰とも付き合ってません!」
「「「ええぇぇぇぇぇぇぇー!!?」」」
まもりが言い切った途端、店中からどよめきが上がった。
「二人は付き合ってないの?!」
「うっそ~!?」
「どう言う事?!」
「マジでぇ?!」
「じゃ、じゃあ姉崎さんってフリー?!」
「お、俺にもチャンスが有るってことか?!」
「おめぇにはねぇよ!」
「わかんねぇだろーが!」
「蛭魔!本当なのか?!」
まもりに向いていた視線が一斉に店内の一番奥のテーブルに座っている俺に向かう。
当の俺はこいつの思っている事など分かり切っていたので、乗ってやることにした…
…が、これくらいで逃げれると思うなよ
俺は今まで一度も狙った獲物を逃がした事はないんだ
「俺は誰かと付き合ってるなんざ言った記憶は無ぇなぁ」
おれの言葉に多くのむさくるしい男どもが色めき立つ。
なんて単純で哀れなやつらだろうか。
あとで落ち込む顔が見ものだな
「あ、姉崎さん!俺と付き合って下さい!」
「いや、俺と!」
「で、デートして下さい!」
「結婚を前提にお付き合いを!」
「いや、俺と結婚して下さい!」
まもりの周りにはムサイ男の人垣ができ、その全員が口々に鼻息荒く話しかけてくるのでたまったモノではなく、その後の新歓コンパは散々なものとなった。
どうだ?
これでも楽しかったか?
俺はすごく不快だが、ここは我慢だ
なにせ、俺の一大プロジェクトのプロローグとなる時なんだからな。
あれから数日後―――
日に日にまもりのフラストレーションはたまっているのがわかる。
毎日、相手かわれど主変わらずで、まもりの元には次々と交際を申し込む輩が来たからだ。
部活中でもすきあらば何かと用事を作りまもりに話しかけて来るので思うようにマネージャー業務がはかどらず、他のマネージャーにしわ寄せがいく始末
ざまあみろだ
仕方ない。そろそろ仕掛けるとするか…
俺は別に飲むわけでもないのに、自分のスポーツドリンクを探す
まもりは、俺にスポーツドリンクを渡す為に一歩踏み出しかけた、が、近くにいたマネージャーがおれにボトルを差し出す
「まもりちゃんに嫉妬されちゃうかな?」
「あいつが嫉妬してくれるたまなら、どんなに苦労しなかった事かわかりゃしねぇ」
ハハハと笑うこいつは彼氏とうまくいっているらしいのか、ずいぶん余裕をぶっこいている
こいつのように幸せオーラをまもりが出すのか…?
……
ないな。
それはないな。
笑えるな。
さて…と
そろそろ仕上げだ
覚悟しやがれ俺の可愛い糞ウサギ
「あ、蛭魔君」
「おう」
おそらくあの五月蠅い蠅どもから逃げてきたのだろう。
ご苦労なこった
あの時言っていればよかったものを
「おい、糞マネ。えらく景気悪い面してんな」
「もう、聞いてよ!あの新歓以来みんなが仕事の邪魔ばかりしてくれるせいで仕事が滞っちゃって、他のマネージャー達に迷惑かけちゃうし、イライラするし、もううんざり!本当にどうすれば良いんだか!蛭魔君、どうにかしてよ!」
驚いた
ここまでとは思ってもみなかった
しかし悪くない
むしろ上出来だ
さあ…
SET!
「おい、糞マネ。てめえの悩みを解消してやろうか?」
俺は悪魔の司令塔だ。
お前をものにすることなんかたやすいんだよ
「どうにかして」
「了解」
部室を出て向かう獲物は蠅どもだ。
さあ、俺の女を困らせやがった命知らずはどこのどいつだ?
一人残らずぶち抜いてやる
「な、何!?」
「YA――HA――――!!」
「蛭魔君!何やってるの!」
慌てて止めるべくまもりはおれに駆け寄ったがこの際一切無視だ。
まだ試合は終わってねぇからな
「糞野郎共よく聞きやがれ!姉崎まもりは俺のんだ!何か意見のある奴は出て来やがれ!!」
「えぇっ!?」
突然の宣言に驚いたのはまもり一人だけだった。
その顔ときたら…
あぁ…
おかしいな、まもり
「な~んだ」
「やっぱりな…」
「そんな事だろうと思った」
「だろうな」
何事が起きるのか身動ぎもせず固唾を飲んで見つめていたアメフト部の面々は、なんだそんな事かと肩透かしを食らった様子で何事もなかったように各ポジション練習へと戻って行った。
ぽつんと取り残されたまもりは言葉もなく呆然と立ち尽くす。
そんなまもりに意地の悪い餓鬼のように声をかけた。
「問題解決したぞ。良かったデスねぇ糞マネ」
「…何が?」
「これで周りをうるせぇ糞蝿が飛ぶ事はねぇだろ?」
「……。」
はぁ…とため息をつくまもり。
かわいそうに
もうお前はかごの中
逃げることはかなわない
「お陰で大学時代に彼氏は望めなくなったわ。蛭魔君も彼女出来ないわよ?良いの?」
「彼女はいるから もう要らねぇよ」
「えぇっ?!蛭魔君って彼女いたの?!」
「おぅ。たった今、目の前にな」
「えぇ?!」
まもりは辺りをキョロキョロ見回したが自分以外誰も居ないのを確認した。
ばかか
そういうところも可愛いと思う俺も馬鹿なのだろうな
「…あれって嘘じゃないの?」
「契約しただろうが」
「……。」
「契約解除するか?」
「………しなくて良いです…。」
――――――Touch Down……
「おっし、じゃ、そう言う事で」
おっとまだこいつにとどめを刺していなかった。
まもりの腕を掴み、自分の方へ引き寄せ、その耳元で囁いた。
囁くのは甘い言葉なんかじゃねえから注意しろ
「覚悟しとけよ糞ハニー」
言葉の代わりには耳元に軽いキスを
大事なウサギの為の素敵な甘いおやつ
「契約完了!毎度あり~」
まもりは真っ赤な顔で耳を押さえていた
その顔をカメラに収めてなかったのが、このプロジェクト唯一の汚点だったが、それでもいいかと感じた
こいつが幸せならば何もいらない
END