純情ACTION
大学生活のリズムがどうにか掴めた頃、最京大アメフト部では居酒屋を貸し切り、新歓コンパが執り行われた。
自由な校風からか、最京大アメフト部は伝統校の割りに上下関係の垣根がなく、先輩後輩和気あいあいとしている。
部長の乾杯の音頭で始まった新歓コンパは、一時間もたった頃にはかなりはじけたものになっていた。
席は基本、自由なのだが大まかに学年ごとに大体バラけて座っており、数人いる女子マネージャーは華として、四回生の多く座るテーブルに座らされていた。
「いやぁ~、それにしても残念だなぁ。姉崎さんが彼氏持ちなんてなぁ」
四回生の井上がしみじみと呟いた言葉にすかさず三井が相づちをうつ。
「そうそう。しかもその彼氏ってのがあれだもんなぁ…」
井上と三井の会話に近くで飲んでいた者達が次々と加わってくる。
「ウンウン。まさに優等生が不良に惚れるって言う漫画みたいなパターンだよなぁ」
「だよなぁ~。高校ではキャプテンとマネージャーで…」
「大学は二人揃って親元離れて関西へ…」
「くっそ~!羨まし過ぎるっ!」
「世の中不公平だー!」
「やってらんねぇよなぁ、おい!」
「まったくだ!」
そう言いながら大ジョッキをその場にいた全員がやけのように次々煽っていく。
「あ、あのぉ…」
まもりはたまらず声をかけるが誰一人まもりの話など聞いておらず、銘々好き勝手な事を喋っている。
「しかし、あれだよなぁ。なんで付き合うことになったの?」
「それ!俺も聞きてぇ!」
「アイツが告るとこなんて想像できねぇもんなぁ」
「あぁ。でも、ああ見えて二人っきりだと実は…とかぁ?!」
「甘えん坊さんってかぁ?!」
「うっわ!キモ!」
どんどんエスカレートして行くテンションにまもりはなんとしても黙っているわけにはいかなくなる。
バンッ!
「違いますっ!!」
両手で思い切りテーブルを叩き声を張り上げると効果は絶大で、今までの喧騒が嘘のように店中が静まりかえった。
コホンと一つ咳をして、まもりは静かに、しかしきっぱりと言葉を口にする。
「私と蛭魔君は付き合っていません!私は誰とも付き合ってません!」
「「「ええぇぇぇぇぇぇぇー!!?」」」
まもりが言い切った途端、店中からどよめきが上がった。
「二人は付き合ってないの?!」
「うっそ~!?」
「どう言う事?!」
「マジでぇ?!」
「じゃ、じゃあ姉崎さんってフリー?!」
「お、俺にもチャンスが有るってことか?!」
「おめぇにはねぇよ!」
「わかんねぇだろーが!」
「蛭魔!本当なのか?!」
まもりに向いていた視線が一斉に店内の一番奥の一回生のテーブルに座っている蛭魔に向かう。
当の蛭魔はさして興味が無い風で刺身をつつきながら答える。
「俺は誰かと付き合ってるなんざ言った記憶は無ぇなぁ」
蛭魔の言葉に多くの部員が色めき立つ。
「あ、姉崎さん!俺と付き合って下さい!」
「いや、俺と!」
「で、デートして下さい!」
「結婚を前提にお付き合いを!」
「いや、俺と結婚して下さい!」
まもりの周りにはムサイ男の人垣ができ、その全員が口々に鼻息荒く話しかけてくるのでたまったモノではなく
、その後の新歓コンパは散々なものとなった。
あれから数日後―――
毎日、相手かわれど主変わらずで、まもりの元には次々と交際を申し込む輩が来た。
部活中でもすきあらば何かと用事を作りまもりに話しかけて来るので思うようにマネージャー業務がはかどらず、他のマネージャーにしわ寄せがいく始末に日に日にまもりのフラストレーションはたまって行った。
今日も今日とて、たいした用事でも無いのになにかれと話しかけて来る部員にまもりはいい加減うんざりしていた。
部活についてなら構わないが、大半がとるに足らない用件で、すぐにまもりの好みだとか、趣味だとか、デートの誘いや付き合って欲しと言う交際の申し込みの話しをしてくる。
丁重に何度も全てお断りしているのに一向に減らない。
ようやくうんざりする誘い攻撃から逃れ、ほっとため息をついた時、まもりはベンチに数人の男女がいることに気付いた。
ベンチでは自分がする筈だった書類をかわりにまとめてくれたマネージャーの一人が蛭魔達と書類を見ながら談笑している。
あっ―――
自分のスポーツドリンクを探す蛭魔に気付いた。
蛭魔にスポーツドリンクを渡す為に一歩踏み出しかけた時、近くにいたマネージャーが蛭魔にボトルを差し出した。
受け取る時、蛭魔が何か冗談を言ったのかマネージャーが楽しそうに笑っていながら蛭魔の肩を触っている。
蛭魔君と付き合ってるって勘違いされてる時の方が良かったな…。
ぼんやりそんな事を考えた自分に驚き慌ててまもりは自分の仕事に戻った。
その後もまもりのイライラが解消されることはなかった。
それどころかなかなかなびかないまもりにみんな意地になっている感すらするほど強引さが増してきた。
今もなんとかしつこい追っ手をかわしマネージャー業に精を出すべく部室へ逃げこんだ。
「あ、蛭魔君」
「おう」
そこには用事で部活に遅れた蛭魔がいた。
「おい、糞マネ。えらく景気悪い面してんな」
「もう、聞いてよ!あの新歓以来みんなが仕事の邪魔ばかりしてくれるせいで仕事が滞っちゃって、他のマネージャー達に迷惑かけちゃうし、イライラするし、もううんざり!本当にどうすれば良いんだか!蛭魔君、どうにかしてよ!」
たまったストレスを吐き出すように一気に言葉をつむいだまもりを少し驚いた表情で見ていた蛭魔だが、まもりがまくし立てた後、深く息をついたのを見た瞬間、いつもの悪巧み全開の笑みを浮かべた。
「おい、糞マネ。てめえの悩みを解消してやろうか?」
蛭魔のそんな笑顔を見ていると魔方陣で悪魔を呼び出してしまったような錯覚を起こす。
―――これは悪魔との契約よ!
頭の中の深い所で警鐘が鳴っている。
だけど――…
「どうにかして」
知らず口から出た言葉に自分で驚く。
「了解」
ニヤリと蛭魔らしい笑みを残し部室を出て行った。
1人になったまもりは全身の力が抜けた気がして椅子にぺたりと座った。
しばし一人きりになり思考がフリーズしたその時、部室の外からマシンガンを連射する凄まじい音が聞こえてきた。
「な、何!?」
まさか自分の言葉を受けた蛭魔が先輩達を銃撃してる?!
「YA――HA――――!!」
まもりが慌てて部室から飛び出すと、そこには雄叫びをあげながら空に向けて銃を乱射する蛭魔がいた。
「蛭魔君!何やってるの!」
慌てて止めるべくまもり蛭魔に駆け寄ったが蛭魔は一切無視だ。
「糞野郎共よく聞きやがれ!姉崎まもりは俺のんだ!何か意見のある奴は出て来やがれ!!」
「えぇっ!?」
蛭魔の突然の宣言に驚いたのはまもり一人だけだった。
「な~んだ」
「やっぱりな…」
「そんな事だろうと思った」
「だろうな」
何事が起きるのか身動ぎもせず固唾を飲んで蛭魔を見つめていたアメフト部の面々は、なんだそんな事かと肩透かしを食らった様子で何事もなかったように各ポジション練習へと戻って行った。
ぽつんと取り残されたまもりは言葉もなく呆然と立ち尽くす。
そんなまもり近づくと蛭魔はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて声をかけた。
「問題解決したぞ。良かったデスねぇ糞マネ」
「…何が?」
「これで周りをうるせぇ糞蝿が飛ぶ事はねぇだろ?」
「……。」
確かに静かにはなるだろう。
そのかわり大学時代に彼氏も望めなくなった気がする。
はぁ…とため息をつくとまもりは思った事を口にした。
「お陰で大学時代に彼氏は望めなくなったわ。蛭魔君も彼女出来ないわよ?良いの?」
まもりの言葉に蛭魔は怪訝な顔をする。
「彼女はいるから もう要らねぇよ」
「えぇっ?!蛭魔君って彼女いたの?!」
「おぅ。たった今、目の前にな」
「えぇ?!」
まもりは辺りをキョロキョロ見回したが自分以外誰も居ないのを確認した。
「…あれって嘘じゃないの?」
「契約しただろうが」
「……。」
「契約解除するか?」
「………しなくて良いです…。」
しばし沈黙の後、まもりは消え入りそうな声で答えた。
「おっし、じゃ、そう言う事で」
そう言うと蛭魔はさっさとグラウンドへ行くために歩き出したが、数歩歩いたところでいきなり引き返して来た。
そして、まもりの腕を掴むと自分の方へ引き寄せ、その耳元で囁いた。
「覚悟しとけよ糞ハニー」
耳元にチュッと軽いキスをすると「契約完了!毎度あり~」と笑いながら今度こそグラウンドへ行った。
まもりは真っ赤な顔で耳を押さえていたが、いつものようにグラウンドから銃声が聞こえて来るといつものマネージャーの顔になり、グラウンドへ向けて軽やかに一歩を踏み出した。
終わり
私の書く話ってのは毎回毎回飽きもせず・・・・。
こんなんばっかです★
13000記念の時は もう少しマシなものが書けるように精進します!!

PR