BE MY BABY 4
アメフト部の部室を見た瞬間、私の頭はしばらくフリーズした。
そこには異空間が存在していた。
なんなんだこの部室は?!
屋根の上のマスコットキャラクターのド派手な看板。
夜になるとネオンライトが輝くこと間違いない。
とてもじゃないが健全な高校生の部活の部室には見えない。
どう見てもカジノだ。
それ意外無いだろう!?
唖然と立ち尽くす私の隣で、さすがに妻も驚きを隠せず立ち止まった。
「まもり…ここが部室なの?」
「うん…蛭魔君の趣味でこんなになっちゃったの」
「蛭魔君の趣味なの…」
妻も蛭魔に対する考えを改めたか?
この部室からわかる通り、やはり蛭魔はろくでもない男に違いない!
妻もわかっただろうと思った瞬間「蛭魔君って面白い子なのね」となにやら楽しげだ。
どうしてそうなる?!
我が妻ながら時々わからない…。
ガラッ
いきなり部室のドアが開き体格の良い男が出てきた。
こちらに気付くと軽く会釈したのでこちらも返した。
「両親なの。練習試合をみにきたの」
「そうか。わざわざありがとうございます。試合までまだ時間が有りますから部室で寛いで下さい。コーヒー位なら用意できますから」
決して愛想が良くはないが武骨ながらも実直な感じが伝わる。
あまりに落ち着いた雰囲気に、最初は顧問の先生かと思ったが、着ているのがユニフォームだと気付き高校生だとわかり内心、驚いた。
えらく老け…いや、大人びた高校生がいるもんだ。
まもりと並んで歩いたら援交のサラリーマンと間違われるのでは……はっ!
こ、この男か!?
この男が蛭魔なのか!?
高校生位の女の子は同級生は子供っぽく感じてしまい、大人の男に惹かれたりすると聞いたことがある。
まさに!!
いや、同級生なんだが、どう見ても同級生には見えない渋さに惹かれたのか?!
さすが不良どもを束ねただけはある。
そこいらの小僧には出せない風格が既に漂っている。
落ち着いた物腰と気配り。
反対する理由が……『老けすぎ』では駄目だろうし……。
いやいや、まだわからない。
この男の本性がどんなものか見極めなければ!
おいそれと認めてたまるか!!
大体、一見、大人びた落ち着いた男に限って裏では超マザコンだったりするもんだ。
そんなマザコン男とまもりを付き合わせるわけにはいかない!!
「武蔵厳です」
「ムサシ君はキッカーなのよ」
「まもりの母です。よろしくお願いしますね」
・・・・・・武蔵?
妻と挨拶を交わしている男はどうやら蛭魔ではなかったらしい…。
とんだ肩透かしを食らってしまった。
グランドへと向かうムサシ君の背中を見送りながら「個性的な子が多いのね」とにこやかに笑う妻に「そうだね」と軽く返事をかえしたが、内心では「冗談じゃない」と悪態をついた。
なかなか現れない蛭魔に苛立ちが募る。
絶対、断じて、断固、こんなアメフト部の奴との交際なんて認めんぞー!!
鼻息も荒く、部室へと足を踏み込んだ。
―――が、室内には誰も居らず私の意気込みはまたしても空振りに終わった。
運動部の部室て言うのは総じて汚く、汗臭いものだ。
だが、さすが、娘がマネージャーをつとめるだけあって部室内は整理整頓が行き届いていた。
……が!
違うだろう!?
なんで部室のど真ん中にデカデカとルーレット台が有る!?
なんで何台もスロットマシーンやダーツ台が置いて有る!?
ここはアメフト部の部室ではないのか!?
外が外なら中もまるきりカジノじゃないか!
アメフト部ってのはどう言う部なんだ?!
マトモじゃないだろう?!
「……これも蛭魔君の趣味なの?」
部室内を見て唖然となった妻がまもりに尋ねた。
「そうなの。でも、このルーレット台の板はリバーシブルになってて作戦たてたりする時にとっても便利なのよ!」
どことなく自慢気に話す娘に問題はそこじゃないだろう!とツッコミを入れたくなる。
この部室は普通じゃないとわからない程すっかり毒されているのか?!
「アメフト部の部室には見えないわね~」
呆れたように室内を見回す妻に、ようやくわかってくれたかと思わずガッツポーズしそうになったが、まもりの返事にコケた。
「コーヒーも自慢なのよ!蛭魔君って凄くコーヒーにうるさくってね。私、色んな豆をブレンドして試して作り出した自信作まもりブレンドなのよ!コーヒーメーカーも最新の良いやつにしたばかりだし、絶対美味しいから飲んでみて」
そう言うとまもりはいそいそとコーヒーの準備を始めた。
「まもりってば本当に蛭魔君のこと好きなのね~」
ほぅと頬に手を当てて妻がうっとりと呟いた。
冗談じゃない!!
どう考えたって蛭魔とか言う男はギャンブル好きなろくでなしじゃないか!!
そんな男と付き合うどころか関わることすら許したくない!
そんな男と関わったりするから通常の感覚が麻痺してこの部室の異常性に気付かなくなっているんだ。
朱に交わればなんとやら…
よくも私の可愛い娘をこんな部屋にー!
「どうぞ。飲んでみて?」
怒り心頭の私の前にすっと差し出された芳ばしい薫りのコーヒー。
一口飲むと口の中に芳醇な味わいが広がる。
さすが娘が入れただけはある味わいだ。
しかし…こんな美味しいコーヒーを娘が一生懸命、蛭魔の為に考えたのだと思うと余計怒りが増してくる。
「本当に美味しい!まもり、ウチのコーヒーもこのブレンドにしてちょうだい」
妻の素直な感嘆の言葉にまもりもまんざらでもない笑顔で返す。
「でしょ?このブレンドにしてから 蛭魔君ったら 自分の家でも このブレンドのコーヒー飲む用意なったのよ。コーヒーメーカも新しいやつに買い換えてね。あんなにコーヒーにうるさいクセに家ではインスタントか缶コーヒーだたのよ。信じられないでしょ?まあ、今でも自分じゃあんまりいれないらしんだけどね。私ばっかり使ってる感じでね・・・あ!そうそう、栗田君が持ってきてくれたお菓子があったわ!とっても美味しいの。取ってくるね」
そう言うとまもりは再び部室の奥へと行った。
・・・・・・・なんだか、無性に引っかかる言葉を聞いてしまったような気がするが・・・・
理解すると発狂しかねない危険が伴いそうで、私は深く考えないよう、あえてスルーした。
それにしても・・・・
こんな健気な娘を手玉に取るなんて…
娘の純情を利用するなんて…
あの不良部員が言うように蛭魔と言う男は本当に悪魔なのかも!?
本当に悪魔なら放っておくわけにはいかない。
なんとしても娘の目を醒まさせなくては!!
可愛い娘の為なら私はエクソシストにだってなる!
怒りのあまり 自分の考えに浸っていた私は、悪魔がすぐそこまで来ていることに気づいていなかった------------------。
つづく
次回、ようやく蛭魔さん登場!
・・・・・蛭魔さんって まもりの両親にあったらどんな態度とるんかしら???

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