また明日・・・
「美味しい?まだ沢山有るから いっぱい食べてね」
ニッコリ微笑んでまもりは調理実習で作った山盛りのクッキーを目の前に差し出す。
天使の微笑みの裏に悪魔への当て付けが透けて見える。
残す事は許さないと言う無言の圧力を感じる。
差し出されるまま、1つ、もう1つと、黙々と食べるが頬に当たる視線が痛い。
冷ややかな視線を送っている悪魔は甘いモノが嫌いだ。
匂いですら許せない。
あまつさえ仮にも自分と付き合ってる女が自分が嫌いなモノを当て付けのように目の前で他の野郎ににこやかな微笑を送りながら差し出しているのなら……尚更、忌々しさ倍増間違い無しだろう。
どんどん部室内の体感温度が下がっている気がする。
災いが降りかからないうちにこの場を離れる為にひたすら無心に差し出されるクッキーを食べ続ける。
「てめえ、そんな糞甘えモンいつまでむさぼり食うつもりだぁ?!糞デブみてぇになりてえのか?!」
「この位じゃそんなに太らないわよ。自分が食べれないからって人に八つ当たりしないで」
「砂糖ジャンキーなつまみ食い糞風紀委員にはわからねえかも知れねぇが、そんな糞甘ぇモン、山程 喰わされるのは立派な拷問なんだよ!」
「そんな風に感じるのは蛭魔君だけです!」
いつもの言い合いが始まり、部室の中は悪魔と天使の戦場とかし、まるでこの場に居るのは二人だけのような、他の者は誰も立ち入る事の出来ない空間が生まれる。
「何でそんな酷いこと言うのよ?!」
突如現れた異空間にしばし呆然としている間に戦いは最終局面に突入したようだ。
「蛭魔君が甘いモノが嫌いなのは知ってるわよ!だから、一生懸命考えて色々な甘くないクッキー作ったのに……。一口も食べてくれないわ、匂いだけで全否定されるわ…本当に私、馬鹿みたい…」
目にいっぱい涙を浮かべた相手にさしもの蛭魔も黙り込む。
泥門には名物とも言える調理実習のメニューが在る。
それが今日、まもりが受けた『クッキー作り』だ。
実はこの調理実習、泥門ではバレンタインよりも盛り上がる。
何故かというと、調理実で作ったクッキーを渡して恋が実るとラブラブカップルになれる、また、既に付き合っているカップルの場合、そのカップルは幸せな結婚ができると言うジンクスがあるからだ。
だから片想いしていたり、恋人のいる女子は目の色をかえてこの調理実習に挑む。
ただの噂。
根拠の無い話しとはわかっていてもつい真剣になるのはしょうがない話しだし、「部の先輩の先輩の友達が調理実習のクッキー渡して恋が実って、今は幸せに結婚しているんだって!」なんて怪しい話しでも「すっごーい!やっぱりジンクスは本当なんだ!」と信じてしまうのが恋する乙女の心と言うものだ。
「てめえ、あのジンクス知ってんだろうが?」
「…えぇ」
「付き合ってる奴に渡すって事は逆プロポーズするって事だぞ」
「!!」
考えてみれば確かにそう言う話しになる。
だがお祭り的要素が強いイベントなのでそんな深く考えていなかった事実を突き付けられた途端、真っ赤になって口をパクパクするしか出来なくなった相手に悪魔は容赦なく言葉を続ける。
「ケケケッ。悪魔と婚姻の契約を交わすって事で良いのか?糞カノ。俺が食べるって事はそう言う事だぞ?それでも良いなら契約と行こうじゃねぇか。その毒入りクッキーを差し出しヤガレ」
実に愉快そうに悪魔が笑う。
本当に悪魔だ。
こんな野郎のどこが良いんだか?
すっかり忘れ去られているのはわかっているが二人の動向を息をつめて見守る。
天使はじっと真剣な顔で皿の中のクッキーを見つめた後、迷う事なく山の中からクッキーを一つ選びとり蛭魔へと差し出した。
その瞳に迷いは無い。
蛭魔だけを見つめる瞳は潤み、頬は桜色に染まり、唇は艶やかに輝いて見える。
そんな顔を見せられたら男なら誰しも身体の奥にズクンと熱いモノがせりあがって来るのを感じてしまうと言うものだ。
悪魔の顔に焦りの色が浮かんだのがありありとわかった。
あの悪魔が動揺している?
そんなモノが目撃できるなんて宝くじに当選するくらい稀な事に違い無い。
「糞!」
いきなり悪魔は体を翻し部室のドアを蹴って全開にするやいなや、どこから出した?いつの間に?と、その場にいた全員が呆気に取られる速業で両手に持っているモノを投げた。
それはもう、試合を決める大逆転のロングパスを投げる時のような勢いで…。
「あぁ?!何、人のモン全力投球すんだよ?!」
悪魔が投げたのは糞長男のバッグ一式と、特別製の巨大ほねっこ。
思わず飛び出た俺達の後ろで、大きな音を立てて扉は閉ざされた。
しっかり鍵をかける音も聞こえた。
隣を見ると糞長男が閉ざされドアを振り返った姿のまま呆然と立っている。
まあ、アレだ。
俺達ふたり、とんだ当て馬だったって事だ。
あの二人は周りを巻き込んで勢力を増して行く台風みたいなモンだ。
今回の台風の被害者は俺と運悪く置き忘れていた携帯を取りにノコノコ戻った糞長男だった。
俺はクッキーも食えたし、特別製ほねっこもGET出来たから被害は無いに等しいが、立ち尽くす糞長男にはどうやら甚大な被害が発生したらしい。
でも、まあ、あの二人の近くに居るって事はこれからも台風だのハリケーンだのサイクロンだの、ありとあらゆる災害に見舞われる可能性が高いって事だ。
今回の事を教訓に防災についてせいぜい学習しろよ?
俺は糞長男の足をポンポンと叩いて慰めてやった。
特別製ほねっこはわけてやらねぇけどな!
ガフゥ!
END
え~っとぉ~
赤薔薇さんより 『ケルベロスから見た蛭×姉』ってリクエストを頂きまして
考えてたら出てきたのは何故か十文字でした。
ケルベロスから見た蛭×姉←十って感じ?
十文字はオマケです★
なかなかリクエスト通りには書けないと思いますが、どれだけ外すか興味のある方はリクエストどうぞですv
赤薔薇様
リクエスト有難うございましたv
長らくお待たせした割に 出来上がったのはこんなトボけたもので申し訳ない~~。
少しでも気にいって頂ければ幸いです。
懲りずにまたよろしくですv

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