翼にのせて
日付変更線を越えたとアナウンスが告げた。
後、何時間後には結末が見える。
聞くともなしにつけていたヘッドフォンを外し窓の外を眺める。
小さな島国を飛び出して三年。
一度も帰ることはなかった。
何処にいようとあの国の情報ならどんな些細な事でも容易く入手できたがこの三年間、いっさいの繋がりを絶っていた。
別に里心がつくとか、そう言う理由からじゃない。
単にそこが自分のあるべき場所でなくなったから今の生活から切り捨てただけだ。
俺が居なくなって喜ぶ奴はごまんといても、困る奴なんざ一人も居ねえ。
だからすっぱり断ち切れた…はずだった。
アメリカに渡ってからの道のりは決して平坦なもんじゃなかった。
差別に偏見、元々、体格も運動能力も並みの俺がそんな楽に行かない事は覚悟の上だったが、肉体的にも精神的にもその過酷さは生半可なモンじゃなかった。
毎日ドロドロに疲れてベッドに倒れこみ、朝まで死んだように寝る。
毎日が延々と続くデス・マーチのような三年だった。
心が折れないように、ただただ何も考えずがむしゃらに走り続けてようやく掴んだチャンス。
決してゴールではない。
これからは今まで以上に気が抜けない。
鵜の目鷹の目で隙を狙ってる奴が後から後から湧いてくる。
油断したが最後、寝首かかれてハイ、それまでよだ。
誰もが人を蹴落とし這い上がろうとしている世界。
ビビってる暇なんざ無い。
世界中を騙してでも突き進んで行くだけだ。
それだけのはずだった。
なのに…。
入団手続きを済ませた帰りに見た夕日があまりに綺麗で、思わず街の観光スポットになっているビルの展望室に登って地平線に沈む夕日を眺めた。
こんな静かな気持ちになったのは久しぶりで、無心で見つめていた時、訳もわからずアイツの名前を呟いていた。
そんな自分にひどく驚いた。
無意識に呟いた意味。
今、心がたどり着いたのを細胞レベルで理解した。
砂漠が水を吸い込むように瞬時に身体中に浸透して行く。
気付けば足元では街の明かりが瞬いていた。
いてもたってもいられず、ホテルに飛んで帰ると電話わきのメモ帳を破り文字を書きなぐった。
窓から視線を戻し機内サービスのミネラルウォーターを頼む。
冷たい水が喉を潤す。
わかっている。
身勝手なことは。
今のアイツには好きな奴がいるかもしれない。
付き合ってる奴がいるかもしれない。
それどころかすでに結婚していてもおかしくない年だ。
だからあの手紙は今更で、迷惑なだけの代物かもしれない。
らしくない 躊躇いと期待を乗せて銀色の翼は運命の時へ向かう。
祈るような気分でゲートをくぐる。
悪魔は神には祈らねえ。
では何に祈る?
そこに在るのは生か死か…。
ゲートから吐き出されるような人波の中、思わず立ち止まる。
視線の先には俺を見つめる懐かしい瞳。
声にならない。
今なら素直に愛の告白のひとつでもできる気がしていたのに、アイツの顔を見た途端、そんなものはぶっ飛んだ。
立ち尽くす俺の元にアイツも言葉を発することなくゆっくり近づいてくる。
二人の距離は残り一歩。
「契約は?」
まもりの静かな問いかけに蛭魔はまもりを壊れるほど強く抱きしめた。
Fin
スミマセン。
最後、逃げちゃった気がする・・・。
スターダストレビューの「夢のつばさ」を聞いて浮かんだお話です。
高校も大学も付き合うことなく別々の道を歩き始めた二人はどうなるかな~と思ってた所に聞いたので、「これだ!」と勢いで書き始めたのですが・・・・ぐるぐるし過ぎぃ~~。
歌詞はシリアスなのに 結構ポップな曲で あまり蛭魔には似合わないんだけど書いちゃいました★
セリフのないお話って文章力がカギだと痛感いたしました。
精進しますっ!!!

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