BE MY BABY LAST
蛭魔と言う男は見た目の派手さから、さぞや騒がしい男なのだろうと思っていたが、意外にも中心で騒ぐタイプではないようだ。
練習試合に勝利した時も、圧勝に団子になってはしゃぎまくるメンバーを少し離れた所で見ていたし、打ち上げも中心ではなく、店内全体が見渡せる位置に座っている。
根っからのリーダー気質なのだろう。
お互い、暫く黙々と焼けた肉を食べた。
さすがの蛭魔も彼女の父親にビビっているのか?
そうなのなら少しは可愛げのある男だが…。
しかし、いつまでも無言と言うわけには行かない。
ここは一つ大人の余裕を見せて私が先に口を開き会話をリードしてやろうと思い、話しかけようと口を開いた瞬間、私より先に蛭魔がしゃべりだした。
「今日はわざわざ練習試合にお越し頂きありがとうございました。」
軽くではあるが言葉と一緒に頭を下げる蛭魔に驚いて一瞬、私の反応が遅れた。
「いやぁ、素晴らしい試合を見せてもらって、柄にもなく興奮して夢中で応援した。なんだか学生時代に戻った気分になれたよ。こちらこそありがとうだ」
にこやかに笑顔をかわす。
人は見かけによらない。
良く聞く言葉だが、人と言うものはやはり最初の印象でその人の人となりを決めてしまう。
派手な出で立ちはしているが、蛭魔と言う男は実は思慮深く堅実で実直な男なのかもしれない。
でなければあのメンツをまとめ上げて全国優勝なんて出来るはずがない。
見た目で判断しては駄目だな。
さすが娘が選んだだけはあると言う所か…。
私は白旗をあげた気分だ。
「蛭魔君。娘との事は聞いている。あれは私の自慢の娘だ。大切な宝だ。だが、今日、君を見て、君になら任せられる。そう思えた。まあ、その、色々有るかも知れないが…まもりをよろしく頼むよ」
「ケ…ケッ…」
「け?」
「ケーケケケ!」
突然、蛭魔は大笑いして立ち上がったと思うと、いきなりマシンガンを乱射しだした。
な、なんなんだ?!
なんなんだこの男は?!
一体、どこからマシンガンなんか出したんだ?!
って言うか、何でマシンガンなんか持ってるんだ?!
頭が混乱する。
あまりの驚愕な出来事に腰が抜けて立ち上がれない。
「蛭魔君!何してるの!!みんな迷惑するでしょ!」
ただ呆然と眺めるしか出来ない私の目の前で銃を乱射する蛭魔をまもりは勇敢にも止めに行った。
って言うか、娘よ。
そのモップはどこから出した?
いや、それよりもマシンガンにモップで対抗するってどうなんだ??
混乱している割には妙に冷静な状況分析ができるもんだ。
混乱しているからだろうな。
そんな事をつらつら考える自分がおかしい。
その時、気付いたが、驚き腰を抜かしているのは私だけで周りはみな当たり前の事の様に平然としている。
妻ですらニコニコ興味深気に見ているだけで全く青ざめてなんかいない。
全国ニューストップ記事になりそうな事件に慣れきったようなこの雰囲気は何なんだ?!
全くわけが わからない。
「糞マネ!てめえの進学先は最京大に決定だ!!」
「えぇ?!どうして?!」
「てめえの糞親父から許可をGETした!娘をどうぞよろしくお願いいたしますってナァ。YA――――HA―――――!!」
「本当に?!お父さん」
いや、まあ、その、あの、いやぁ…た、確かに言ったかと言われれば言った。
言ったには言ったが、こんなトンでもい男だとは思っていなかったし、第一、大学進学がどうのなんて話は一言も出てないし…
考えは頭の中をぐるぐる駆け巡るだけで言葉にならない。
そんな私の様子をいぶかしむ事なく、娘は喜びで顔をほころばせている。
私が否定しないのを都合良く肯定と取ったらしい。
「ありがとう。お父さん。私、アメフトだけじゃなく、ちゃんと勉強も頑張るから」
「いや…あのな……」
「YA―――――HA―――――――――!!」
「もう!ちょっと蛭魔君!!お店の迷惑になるでしょ!」
「あのな、まもり……」
まもりは父親の呼び掛けにまるで気付かず暴挙を止める為にさっさと蛭魔の元へと行ってしまった。
「ま、まもり~……」
言葉もなく固まるまもりの父親の姿は、蛭魔の本性を知る者達の同情を誘う。
「今日、何でずっと銃を持ってないのかと思ったら…」
「妖一兄、猫被ってたのね~…」
「マネージャーのオヤジさん、まんまとあの悪魔に騙されたな」
「ああ、見事、あの悪魔にハメられたな」
「御愁傷様…」
「姉崎さんも同じ大学に行けて蛭魔良かったね!」
哀れみを送るメンバーの中にあって、栗田だけがニコニコと暢気に喜んでいる。
「アナタ、しょうがないでしょ?素直に負けを認めたら?」
あまりの夫の憔悴っぷりに苦笑いしながらまもりは母が声をかけた。
「み、認め―――ん!断じて認め―――――ん!!」
往生際の悪いまもりの父親にメンバーは「あーあ…」と哀愁に満ちた視線をむける。
「相手はあの悪魔なのにな…」
「どうにもなるわけねぇじゃんな…」
「ま、足掻きてんだろ…」
「悪魔になんぞに娘はやらん――――!!」
狂乱の焼肉屋にまもりの父親の叫び声は虚しく響いた。
END
・・・・・・こんな終わりです。
一応、大団円?
蛭魔が猫を被って、まんまと騙されるまもりパパってのを書きたかったのでした★
この後の番外のお話はまもりパパの逆襲(?)です。
まとめれるかどうか・・・?
まだ一行も書いてないので謎です★

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