向かうのは・・・ last
なんでこんな事になってんだ??
確かにまもりの母が言った通り、蕎麦は旨かった。
年越し蕎麦がざるそばなのにはちょっと驚いたが、手打ち蕎麦の香りやのど越しを楽しみたいなら確かにざるに限る。
一緒に入っていた本わさびを、同じく入っていた鮫肌のおろしきですりおろし蕎麦と食べると格別なうまさだった。
本当に旨かった。
一気に食ってしまった程だ。
…が、だからと言ってそれが今の状況の理由にはならないはずだ。
今、蛭魔は姉崎家のリビングのソファーに座り、コークハイなんぞを飲みつつまもりの母お手製のオードブルをつまみ、つけっぱなしのテレビを眺めていた。
テレビからは普段、洋楽しか聞かない蛭魔には馴染みのない歌が流れて来る。
画面の中では派手な衣装を纏い巨大な鶴の張りぼてに乗ったおばさんが熱唱している。
こりゃ一体何なんだ?
わけわかんねぇ…
年末恒例の国民的番組を観たことのなかった蛭魔は頭が痛くなりそうだった。
キッチンからはまもりと母の楽しげな声が聞こえて来る。
これがアットホームってやつか?
慣れない雰囲気は何とも居心地が悪くて落ち着かない。
どうやってこの場から逃走するか画策していると二人が両手に料理やお菓子の乗った皿を持ってリビングにやって来た。
「『トイレの神様』まだ歌ってない?フルバージョン歌って言うから母さん絶対聴きたいって思ってるのよ」
「あぁ、あの曲って泣けるらしいね」
「そうなのよ~!良い曲なのよ。お祖母ちゃんを思い出して泣けちゃうわ。」
「母さん…ひい祖母ちゃんはまだ生きてるわよ」
「生きてるけどなんだか思い出して泣けちゃうのよ」
まもりと母は話しに花が咲き盛り上がっている。
二人でいれば俺は居なくても良いじゃねえか。
なんとなく手持ちぶさたで蛭魔は二杯目のコークハイを飲み干した。
今年も白組の勝利に終わり、時刻は残り僅かで今日と今年の終わりを告げようとしている。
「乾杯の準備しなくちゃ!すぐだからまもりは座っといて良いわよ。蛭魔君とお喋りしててね!」
まもりの母は軽くウインクするとキッチンへと向かった。
蛭魔君がうちのリビングのソファーに座ってるって不思議。
「なんだよ」
蛭魔の声についぼんやりと蛭魔を眺めていたことに気付き、まもりは少々慌てた。
「あ、ほら、私もトイレ掃除頑張ったらべっぴんさんになれるかな~って思って…そんな馬鹿にしたような目で見ないでよ」
「したようなじゃなくてシテルンデスヨ」
「蛭魔君って本当に失礼よね」
「ケッ。だいたいトイレに女神が居るなんて話し聞いた事がねえ。」
「そうなの?」
「日本には古来より八百万の神が居て、確かにトイレの神様なんてのもいるが、それが女神だなんて聞いた事がねえし、掃除したら綺麗になるのは自分じゃなくて、妊娠中にトイレを綺麗にすると生まれて来る赤ちゃんが美人になるってんだろ」
「赤ちゃん?」
「それだって、悪阻だなんだで動かなくなる嫁を働かす為のエサなんじゃねえの?」
「エサ…」
「ま、心理学的にトイレとか水回りは女のテリトリーだから女神って話しになったのかもしれねえし、人が嫌がることを率先してやりゃあ心が綺麗になって顔つきが良くなるって相乗効果なら有りって話しだな」
「…心。じゃあ蛭魔君もこまめにトイレ掃除したら良いわね。」
「ケッ!んなもんしてたまるか」
「お待たせ~!」
ニコニコしながらまもりの母がシャンパンとシャンパングラスと紙袋を持って帰って来た。
「後少しで今年も終わっちゃうわね~。はい、蛭魔君どうぞ。はい、まもりもどうぞ。」
ウキウキとまもりの母はグラスを配る。
「母さん、その紙袋は何?」
「あ、これ?これはねぇ…はい!」
紙袋から取り出した物を二人に渡す。
渡された二人は手のひらに乗った物を見てきが抜けた気がした。
「12時になったら一斉に鳴らすのよ!」
クラッカーを準備する程、新年を迎える事を楽しみにしていたのなら、そりゃあ1人は嫌だろう。
母のテンションにとことん付き合うしかない…。
二人はなんだか達観した気分になった。
「30、29、28…」
30秒前からカウントダウンを始めた母がそろりと移動を始めたので、今度はなんだと蛭魔とまもりは素知らぬふりをしながらも警戒する。
10秒前になった時、照明が消され、テレビの仄かな明かりの中、楽しげなまもりの母のカウントダウンの声が続く。
「新年明けましておめでとうー!」
12時になり新年を迎えた瞬間、蛭魔はまもりの母に向かってクラッカーを鳴らした。
紙袋に入っていたクラッカーを全部いっぺんに鳴らしたので音も凄かったが、ビデオカメラを構えたまもりの母は全部の紙テープを浴び頭がなんともカラフルになっていた。
「お母さん大丈夫?!」
「蛭魔君ひど~い!」
「ケケケ。期待に添えずスミマセンネェ」
「えぇ、本当に」
「えっ?何?」
まもりは蛭魔と母の会話の意味がわからない。
「だって、新年って言えばねぇ」
「ねぇじゃねえよ。ここは日本デスヨ?大体、てめえは母親だろうが」
「おめでたい日だし、蛭魔君って良い人そうだし、お似合いって思ったんだもの~。蛭魔君ってばシャイなんだからぁ!」
「誰が親の前でするか糞母」
まもりは何がなんだかわからなくなる。
どこがツボだったのかわからないが、どうやら母は蛭魔を気に入ったらしい。
そして蛭魔も母に馴染んでいる。
その証拠に口調がすっかり普段と同じだ。
まもりは二人が笑顔で会話しているのを見ていて、自分は凄い瞬間に立ち会っているのかもしれない。
「まもり~乾杯しましょうよ。乾杯!」
「おい。新年早々なにトボけた面してんだ?」
「わけがわからなくなっちゃって…乾杯ところで、母さんはなんでビデオカメラ構えてたの?」
乾杯しながらまもりは気になったことを尋ねた。
「あん?その話しはさっき終わっただろう」
シャンパンを煽りながら蛭魔はまもりに呆れた目を向ける。
「いつ??」
「てめえの母親はとんだ糞デバガメだって話しだ」
「亀?」
「蛭魔君ひど~い!蛭魔君が意気地無しって話しだったじゃない」
「意気地無し?」
「ここは日本だつってんだろ」
「せっかくなんだから頬っぺにチュッくらいしても良いんじゃない?カメラ構えてるの気付いてたクセに~」
「余計するか!」
「どう言う事?」
「新年を迎えた瞬間って隣の恋人や異性とキスするじゃない?期待したのに蛭魔君ったらシャイなんだもの~」
母親の発言に目眩を感じる。
「あ、まもり。蛭魔君と初詣行って来たら?あまつか神社なら近いから歩いて行けるしね?蛭魔君、行ってらっしゃいよ」
「おら、行くぞ」
この場に居るより余程良いと判断した蛭魔はさっさと出かける準備を整えた。
まもりも慌てて準備を整えると初詣へと出かけた。
外の空気はキンと冷え込んでいて身体と共に心も引き締まるようだ。
母親の見送りをうけ、まもりと蛭魔は並んで神社へと歩き出した。
「蛭魔君。今年もよろしくね」
蛭魔はチラリと背後に目を向けると、まもりの手を掴み自分の方へと引き寄せた。
耳元で「こちらこそ」と囁かれた瞬間、頬に蛭魔の唇が触れたのを感じて、まもりはとっさに頬を押さえて蛭魔を見た。
当の蛭魔は顔を後ろに向けてニヤリと人の悪い笑顔を浮かべており、その手は親指を立ててgoodのポーズだ。
…誰に?
嫌な予感がしつつ蛭魔の視線の先を見るとそこには、同じく親指を立てた手をつきだしてサインを返す母がいた。
「いや~すっかり公認デスネェ」
顔を真っ赤にして金魚のように口をパクパクするまもりに蛭魔はニヤニヤと声をかけた。
「ひ…蛭魔君の馬鹿ー!!!」
「真夜中に大声は近所迷惑デスヨ糞彼女。ケケケ!」
神社までの道のりを二人はじゃれあうようにかけって行く。
今年もこの二人に平穏が訪れることはなさそうだ。
END
・・・・・・・・・・・あはははは~
向かうのは神社にでした★
・・・・・怒らないで下さいね?
散々引っ張ったのにこの体たらく★
あ、トイレの神様については 私の見解です。
妊婦さんが妊娠中にトイレを掃除すると赤ちゃんの顔が綺麗になるとしか聞いた事がないのですよ。
トイレと云うかかわやと云うか、まあ、神様はいるとは聞いてたけど、それが女神さまだとも聞いたことがないのです。
地方によって伝承が違うのかな?
ちゃんと調べてないので不安ですが・・・。
あまり深く考えないで下さいね~~。
今年は紅白 少しだけ見ました。
鶴のシーン、私はお風呂に入ってて見逃しました★
蛭魔、実際アレみたら呆れるんだろうな~。

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