「姉崎さん!お、俺と付き合って下さい!」
「ごめんなさい」
イコール・ベクトル TypeA
「はぁ…」
部員たちの飲み物の準備をしながら、まもりは大きなため息をついた。
「どうしたの?ため息なんかついちゃって」
「体調悪いの?」
同じマネージャーの吉永と夏目が心配そうにまもりに声をかけた。
「あ、いや、何でもないの。大丈夫!」
「本当に?」
「体調悪いなら休んでても大丈夫よ?私達でやっとくから」
「本当に大丈夫だから。ありがとう。本当、体調が悪いとかじゃないの」
「本当?気を使わないでよ?」
「体調じゃないとすると…悩み?」
「えっ」
「はは~ん。悩みは悩みでも恋の悩みと見た!」
「え!そうなの?!」
夏目の言葉に吉永が興味津々な視線を向けて来る。
大学のアメフト部のマネージャー仲間の吉永と夏目とは知り合ってすぐに意気投合した。
この二人は高校時代の友人、サラとアコに雰囲気が何処と無く似ている。
だから、知り合って間もないにもかかわらず、まもりは昔からの知り合いのように打ち解けてる事が出来たのだ。
「そんなんじゃないって~」
まもりが慌てて否定すると吉永は意外そうな顔をした。
「そうなの?でも、磯野君に告白されたって聞いたよ?」
「えっ?私は吉田君が告白したって聞いたよ?」
「えー、そうなの!?ねぇ、まも、磯野君と吉田君、どっちに告白されたの!?」
「え…、えっとぉ…」
「あ!もしかして両方共に告られた?!そうなんでしょう!?」
「そうなの?!さすが まも!やるぅ~!」
盛り上がる二人にまもりは腰がひける。
「告白、今月だけで5人じゃない?」
「まもって、先月も医学部の男子に告白されたよね」
「うんうん。あの眼鏡の背の高い人よね。モテモテだねぇ」
「入学したての頃はまもりは蛭魔君と付き合ってるとみんな思ってたから告白する人居なかったけど、実は蛭魔君とは付き合っていないってわかってからこっち、日がたつに連れて告白回数増えてるよね」
「凄いよね」
ウンウンと息ぴったりとうなずき合う二人にまもりは圧倒されて言葉も出ない。
「それなのにまもったら何、悩んでるのよ?」
いきなり話しを振られまもりはどもりながらも答えた。
「…私なんかを好きになってくれる気持ちは嬉しいんだけど…。断るのが申し訳なくて…」
「あぁ、わかる。こっちは悪くないのになんか罪悪感が残るのよねぇ」
「そうなの。それにお断りしてもなかなかひいてくれなくて…」
「この大学の男ってさ、昔から常にトップだった奴が多いじゃない?自分がフラれるわけないとか妙な自信持ってる男が多いのよね」
「うんうん。自意識過剰って言うかしつこいの多いよね」「だから余計に告白されると身構えちゃって疲れるって言うか…」
「あー、わかる~!」
「私なんかに告白しないでって思うの。告白されない方法って無いかしら…」
「そんなの簡単じゃん」
再びため息をつくまもりに夏目は『簡単』だと言い放った。
「えっ!良い方法有るの?!」
「ありますとも!」
夏目はエッヘンと胸を張って答えた。
「まもが恋人を作る!」
「何かと思えばそんな事かぁ…」
期待して損したとばかりに吉永が呆れた顔をするが、夏目は持論を崩さない。
「だって、まもに恋人がいたら告白する男子は減るだろうし、仮に告白されたとしても『恋人が居るので』で終わりじゃない!」
「それはそうだけど…」
「その恋人が居ないから、まもは困ってんでしょ」
「まもは誰も好きな人居ないの?」
「うん…」
「気になる人は?」
「うーん、居ないなぁ」
「誰かと付き合おうとか、付き合いたいとかも無いの?」
「今のところ…」
「誰かと付き合いたいとかなくて、とにかく告白をどうにかしたいって言うなら話しは早いよ」
「どうするのよ?」
「ふっふっふっ、偽装よ!」
「え?偽装?」
「何それ」
「だからぁ、誰かと付き合ってるってことにしちゃえば良いのよ」
「はぁ?何よそれ」
「だからね、別に相手とも付き合わなくても良いのよ。ただ相手にもまもと『付き合ってる』って嘘を言ってもらうわけよ。そしたらまもには恋人が居るって事になって告白が減るってわけ」
「そんなに上手くいく?大体、嘘に付き合ってくれる男なんて居る?下手したらその男がその気になっちゃったりしてヤバイんじゃない?」
「大丈夫!適任が居るの!」
「そんなのの適任が居るの?誰よ?」
「んッフッフッ。嘘が上手で、告白して来る男の牽制効果も抜群で、まも相手でも馬鹿な勘違いしない男、それは蛭魔君デース!」
「あー、確かにね。蛭魔君なら大丈夫だわ。ただ嘘に付き合ってくれるかどうかが問題だけど」
「蛭魔君も今のところ彼女とか作る気無いみたいだし、意外と話しに乗ってくれるかもよ?」
「何で蛭魔君が彼女作る気無いみたいってわかるの?」
「あぁ、それはね、法学部のマドンナが居るじゃない?」
「あぁ、あの東のまもり、西の沢尻ね」
「……何それ。横綱?」
「あはは!まもったら、違うって!我が最京大のミス最京候補の二人って事よ。東日本出身のまもと西日本出身の沢尻さんだからそう言われてるのよ。で、沢尻さんがどうしたの?」
「なんと、あの蛭魔君に告ったんだって!」
「えー!?蛭魔君に!?」
「まも、知らないの?蛭魔君ってモテるんだよ?なんたって我が最京大アメフト部の花形QBだからね!」「ステイタスだけじゃなく、権力や財力も持ってそうだもんね。目敏い女子なら放っておかないよ」
「絶対将来高値間違いなしの有望株だもんね」
「あの蛭魔君が…」
高校時代、名前を聞いただけで女子が逃げていたアノ蛭魔君が…?
高校時代のイメージが強すぎてにわかには信じらないまもりだったが、考えてみれば…と納得する。
と、同時に何故かモヤモヤした気分になり、何故そんな気分になるのかわからず戸惑う。
「で、沢尻さん、あっさりフラれたらしんだけど、その時、蛭魔が今はそんなモンに関わってる暇はねえってキッパリ言ったんだって」
「あの沢尻さんをフルなんて、蛭魔君さすがだね~。本当に生粋のアメフト馬鹿だね」
「悪魔のクセにね~」
「あ~、でも女ってそう言う男に弱いんだよね」
「そうそう。だから、その件以降、蛭魔株は更に値上がりしてて、まもに負けず連日告白されまくってるって話しなのよ」
「告白されまくり…」
「何?まも、知らなかったの?」
「…うん。知らなかった」
「蛭魔君もさァ、今んとこ誰とも付き合う気無いみたいだし、連日の告白にうんざりしてるみたいだからわたりに船だと思うのよ」
「利害関係の一致ってヤツね」
「ね?良いと思わない?」
「…でも、蛭魔君が受けてくれるかどうか…」
「じゃあ、蛭魔君が受けてくれさえしたらまもの方は良いって事ね?」
「…えっ?あ、うー…うん。蛭魔君さえ良ければ…」
ドゴンッ!!
思いきりドアを足で蹴り開けて蛭魔が入って来た。
「糞マネ共!いつまでチンタラやってやがる!俺らを干からびさせる気か?!」
「あ、ごめんなさい。でも蛭魔君!ドアは足で開けないで下さい!ドリンク、急いで持って行くね!」
大量のドリンクボトルの入ったケースを持ち上げたまもりからヒョイと軽々奪うと蛭魔はさっさとグランドへと歩き出した。
その後をタオルの入ったカゴを持ったまもりが慌てて追う。
「あ、蛭魔君」
「てめえに任せといたらいつ飲めるかわからねえからな」
「だから、ごめんなさいってば!」
「ねえ!蛭魔君!今日、部活が終わってから話しが有るんだけど大丈夫かな?」
「あん?」
大声で呼び止めた夏目に蛭魔は立ち止まって視線を向けた。
「悪い話しじゃないから」
「…わかった」
何故か顔が赤くなったまもりをチラリと視線の端にとらえながら蛭魔は了解の返信を返すと後はグランドへと再び歩き出した。
「…で?」
部活終了後、蛭魔達は大学近くのファーストフード店に来ていた。
「だからぁ、今、話した通り、とりあえず『まもと付き合ってる』って事にして欲しいってワケ。蛭魔君も鬱陶しい告白が減って万々歳でしょ?」
「そうそう。蛭魔君が相手ならまもに告る男子もそうそう居なくなるだろうし、蛭魔君に告白しようって女子も相手がまもなら引き下がると思うんだよね」
四人がけのテーブルの対面に並んで腰掛けた夏目と吉永が身を乗り出して熱弁をふるう。
「糞マネ。てめえはそれで良いのか?」
「う、うん。蛭魔君さえ良ければ…」
「………」
蛭魔は暫し天井を見上げていたが、おもむろにコーヒーを飲み干した。
「わかった。フリすりゃ良んだな」
「やってくれるの!?」
「なに驚いてんだ?てめえらが言って来たんだろうが」
「そうだけど、了解してくれるとは思わなかったから…」
「フン。話しはそれだけか?」
「う、うん。」
夏目と吉永がブンブンと頷くと、蛭魔は話しは終わったとばかりに立ち上がり、隣に座っていたまもりを一瞥する事なく店から出て行ってしまった。
「…蛭魔君。なんだか怒ってた?」
「機嫌良くなかったね…」
二階の窓際の席に座っていたので、下を見下ろせばちょうど蛭魔が店から出て行くのが見えた。
夏目と吉永が蛭魔を視線で追っている
といきなりまもりが立ち上がった。
「ゴメンね。先に帰るね。また明日!」
言うやいなやまもりは手早くトレイを片付けて店を飛び出して行った。
夏目と吉永はギリギリ雑踏に紛れる寸前にまもりが蛭魔に追い付いた姿を見た。
並んで歩き出した二人はすぐに人混みに見えなくなった。
「ねぇ、瓢箪から駒ってあるかな?」
「どうだろうねぇ?ま、塞翁が馬ってね」
「上手くいくと良いね」
「アンタ。最初からソレ狙ってたんでしょ?」
「んふふ。バレた?」
「バレバレ」
「上手くいくと良いナァ」
「ホント…」
二人は二人が見えなくなった雑踏へ再び視線を向けた。
「蛭魔君、怒ってる?」
「別に」
「変な事 頼んじゃってゴメンね」
「別に」
「嫌じゃないの?」
「てめえこそ良いのか?」
「蛭魔君が嫌じゃなかったら…」
「じゃ、別に良いんじゃね?」
「…ありがとう」
「どー致しマシテ」
何故か今日は並んで歩くのが妙に照れくさくてまもりは言葉が出てこない。
すると蛭魔が尋ねて来た。
「偽装彼氏は付き合ってるって言うだけで良いのか?」
「?…多分」
「それだけで周りの奴ら信じるか?」
「…どうだろう?駄目かな?」
「…よし。この店入るぞ」
「えっ?蛭魔君?」
突然、蛭魔がまもりを連れ込んだ店は高級そうなジュエリーショップ。
「えぇ?」と思っている間にまもりはカウンターに座らされ、お茶を頂きつつ店員さんによるハンドマッサージなんぞを受けていたりする。
何でこんな事になっているのかわからない。
蛭魔は何やら店長らしき人物とあれこれ話している。
ジュエリーショップには30分程いただろうか。
怪しげなカードが大量に入った財布を出して支払いをしていた様だったが、店を出る時、蛭魔は何も持ってはいなかった。
一体何だったのか?
その疑問は別れ際に解けた。
「じゃあ、また明日」と背を向けようとした瞬間、腕を掴まれ引き戻された。
「痛ィ!蛭魔君何するのよ?!」
引っ張られた腕の痛みに抗議しようとすると、目の前に掲げられた自分の指に蛭魔が指輪をはめる所だった。
「!…蛭魔君、これは?」
「ただ口先だけで『付き合ってます』って言っても信じねえヤツは居るだろ?そう言う奴の牽制用だ」
「くれるの?良いの?」
「気にすんな。安物だ」
「嬉しい…ありがとう!大切にするね!」
「どー致しマシテ」
まもりは何時までも飽くことなく左手薬指で輝く小さなブルーの石が散りばめられた銀色の指輪を愛おしそうに眺めていた――――――。
「おはよう」
「あ、まも。おはよー」
「おはよう、まも。何か良い事あったの?」
やけに機嫌の良いまもりに二人は何があったのか興味津々で聞いて来る。
「あ、まも!その指輪どうしたの?!」
夏目が目敏くまもりの左手に光るリングに気付いた。
「これ?これはね、昨日、蛭魔君がくれたの」
「蛭魔君が!?」
「『付き合ってる』って口先だけじゃ信じない人も居るだろうからって」
幸せそうに指輪をなでながら微笑むまもりに二人は驚きで言葉も出ない。
「あ、蛭魔君!また後でね!蛭魔くーん!!」
まもりは蛭魔の所へ駆けて行ってしまった。
その足取りはとても軽やかで、立ち止まってまもりを待つ蛭魔の表情もなんだか―――――。
「……付き合ってるフリだけなのよね?」
「あれはどう見てもフリだけがいつまで持つかって感じだね」
「ホント時間の問題よね…」
「まったく…」
そう言って二人は顔を見合せて笑った。
終わり
ま、こんなもんです★
指輪はきっと実は高いです。
当然プラチナです。
指輪とおそろいのピアスにしようかと思いましたが話がダラダラ長くなるのでやめました★
そうでなくても無駄に長いから・・・・。
やたらオリキャラがでばる話。
私ってばこんなのばっか。
次回はもっとラブ度高いの目指します!!

PR